寝言

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 ノアは小さい溜息を吐いて、採取した音声を機器に落とし込みにかかる。  レオはソファーに深く体重を預け、暖炉の温もりにまどろんでいる。しつこいのは通常運転だが、仕事の内容にケチをつけることは殆どなかった。  立花氏の一件で演じた新聞記者の演技が相当に下手だったのだろうかと、ノアは少し自信を失う。 「ねえ、ノア。せめてカラーコンタクトをしてよ。そうしてくれたらもう何も言わないから。君の瞳は美しすぎる」  データのダウンロードが始まり、ノアはやっとレオの元へ向かった。ソファーの前で屈むと、彼のブロンドの前髪がはらりと垂れた。 「この瞳だけは偽りたくないんだ。何があっても」  アッシュグレーの瞳がレオを捉える。その左目は、電子暖炉の揺れる炎を受けて、ちらちらと緑がかってみえた。レオが諦めたように笑う。 「ノアがうんと不細工だったら良かったのに」 「そうしたらお前は僕の仲間にはならなかったんじゃないか?」 「ぼくが顔で好きになったと思ってるの~!? 心外!」 「違うのか?」  レオが頬を膨らませ、いつもの下らないプレゼンテーションを繰り広げようとしたので、ノアは再びデスクへ向かう。  ぽん、と軽くレオの頭を叩き、顔を背けて言葉を吐く。 「悪いな、心配をかけて。必ず手掛かりを掴んでくるから、待っていてくれ」 「……ノア、忘れないで。ぼくは君の計画に従っているわけじゃない。ぼくは君と、この夢屋が大好きだから、君の力になりたいからここにいるんだ。IDEOだろうが何だろうが、君に危険が及ぶって言うんなら、ぼくは計画なんてかなぐり捨てて、ただ君の元へ走るよ」  馬鹿にしたような、呆れたような、そんなお決まりの返しをレオは期待していたのかもしれない。しかし、振り返ったノアは当たり前のような顔をして–––– 「そんなの、僕がお前でもそうするよ。仲間は道具じゃない」  普段の眠たげなレオの瞳がハッと大きく見開かれる。胸の奥からこみ上げる何かを必死に飲み込むように、彼は代わりに小さく笑った。 「やっぱり、ノアには勝てないや」 「当然だ」  雨はもう、止んでいた。
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