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彼女の話はこうだった。父の仕事の取引先の男に恋をした、男の名前はアイザック・ネルソン。ところがアイザックには別に婚約者がいる。政略結婚で婚約者とは恋仲という訳ではないらしいが、アイザックは超がつくほど真面目な男で、色仕掛けは逆効果だという。
いっそ婚約者を殺してしまおうか、そんな彼女の愚痴に乗ったのがエマだった。それなら彼の夢にマーガレットが登場したらどうか。自分は無意識化では彼女に惹かれているのだと思わせる、というのがエマの作戦だ。
「彼型物だけど、真実の愛とかそういうのを信じている節があるのよね。この間もね、道端でロッド寸前のホームレスに水と名刺を渡して『工場勤めで良いなら空きがあるから連絡しなさい』って言ったのよ。慈悲深いのねって感心した私に、彼なんて言ったと思います?」
マーガレットは自分のお気に入りのおもちゃを見せびらかす少女のように目を輝かせた。これが私の宝物よ、と言わんばかりの笑みをたたえている。
「それがね、『神様が見ている気がして』ですって!! おかしいでしょう! 夢を見なくなってから、もう誰も神の声など聞かなくなったのに。結局は皆、自分の聞きたい言葉を勝手に神のお告げだと思い込んでいただけなのにね。でも彼はまだ神を信じている、そんなところも愛おしいの」
そこまで一気に話すとマーガレットはハッと我に返り、少女の顔から淑女の顔に戻った。コホンと小さく咳をして、頬を少し赤らめさせる。
ノアはそれを揶揄うことなどせず、マーガレットに話の続きを促すように優しい眼差しを向けた。
「で、ですから、彼の夢の中に私が登場すれば、きっと運命の女性だと勘違いしてくれると思いますの。きっかけさえ作ってくだされば、後は何とかしてみせますわ。少なくとも、お飾りの婚約者様なんかよりずっと彼のこと想っておりますから」
「なるほど。擬似夢内の人物や場面は自分の脳内から補完する傾向があります。彼のチップに貴方という存在を紛れ込ませれば、運命だと錯覚してもおかしくはないでしょうね。手筈は整っているのでしょうか」
「彼の秘書を買収済みよ。その日の彼のコンディションに合わせて秘書がチップを用意しているの。次の金曜の幹部会議の間にチップを受け取ることになっているわ」
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