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「やばい配信始まるまであと一分もないじゃん、スマホ!Wi-Fi!お願いだから生きて。私が今日何のために生きてきたと、」
「皆さんこんばんはー、天音です。今日も一日お疲れ様。配信見に来てくれてありがとね。」
「間に合ったぁーっ。」
安堵と同時に一気に襲ってきた疲労感に押し倒され、私は机によりかかった。全くあのくそ上司め。コーピーぐらい自分でしろってんだ。
「今日は三連休明けで皆さんお疲れだろうから、僕の配信を見て少しでも癒されてくれると嬉しいな。」
「癒されるどころか生かされます!ああ、神よ天音君という存在をこの世に生み落としてくれてありがとう。」
このうるさくわめいてる私は置いておいて、天音君とは今乗りに乗っているvtuberだ。彼は主にゲーム配信や雑談、ASMRに歌ってみたなどマルチに活躍しており今乗りに乗っているvtuberの一人である。彼の一挙手一等足は私の生命維持に直結している。つまりは、彼が生きていることが私の生きる意味なのである。
「あっ、お茶っ葉さんスパ茶500円ありがとう。いつも癒されてます、これからも頑張ってくださいだってありがとね。この五百円で明日はコメダ珈琲行かせてもらいます!」
「スパチャ!私も投げたい、投げさせて!」
スパチャというのは簡単に説明すると配信者にお金をあげられるシステムのことで、つまり推しを養うことが出来るという素晴らしい制度なのである。しかし天音君の場合は高額なスパチャをもらうのはファンの皆に申し訳ないと、通常配信では上限千円までしか投げさせてくれないのだ。
「今日も配信ありがとうございます。今日を生きられたのも天音君のおかげです。神様仏様天音様ありがとう!っと。」
「わぁ、限界社畜さんもありがとう。明日のランチはちょっといいのが食べれるぞ!」
そして毎回使い道を教えてくれるのもありがたい。明日の天音君のお腹は私のお金で買ったご飯で満たすことが出来るなんて、ありがとうこの世のすべてにありがとうっ。それからの二時間はまさに天国だった。
「じゃあ今日の配信はここまで。今日はすっごく楽しかった。明日からも頑張れる勇気をもらえました。また配信に遊びに来てね。お休み。」
「おゃすみぃぃいいいぃ。」
元気をもらえたのは私の方だ。ここまでファン思いの推しを押せるなんて私は幸せ者だ。と喜び泣いているといつの間にか目覚ましが鳴り始め、私の地獄のような一日が幕を開けるのだった。
「おい、金山昼めし食いに行くぞ。」
「えっ!?お昼ごはんですか?でゅふっ、いいですよ。」
「豚になってんぞ、気をつけろ。」
この仮にもレディーに失礼極まりないのが、コピーすらできない私の上司の天野さんだ。性格は最悪の一言に尽きるが、面倒見もよく仕事はできるし今日みたいによくお昼をおごってくれる一応いい上司である。
「お前今日一日中キモかったけど大丈夫か?」
「幸せだったんで平気です。」
「あっそ、おばちゃん天ぷら定食二つね。」
「えっ!いいんですか?」
天ぷら定食というと会社員のお昼のランチにしてはちょっと値の張る1000円代で、私にすれば高級定食である。
「今日はいいんだよ、お疲れさん。」
「あ、ありがとうございます。」
たまに優しいから憎めないんだよな。そういえば先輩の声誰かに似ているような。そんな先輩から海老を盗み食い怒鳴られながらも、私の一日は幕を閉じたのであった。
「あいつから昨日貰った1000円分は今日でチャラだよな。プラスで海老もつけてやったし。来週の誕生日何あげればいんだろ。ブランドものとかだったらばれるかもだし、あいつの好きな肉かなんかの詰め合わせでいいか。たっけえの買うけど。」
お前ばっかり俺に貢ぐなんてずるいもんな。俺だって押しに貢がせてもらうぜ限界社畜さん。
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