重要書類

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 泥棒に入られた。  それが帰宅して一番に思ったことだった。一人暮らしの狭い部屋は、窓が開いており、服や本、あらゆるものが散らかっていて、足の踏み場もなかった。 とりあえず、手洗いうがいをして、買い物してきたものをしまって…いや現場はそのままの方が良いのか…?などとパニックになったが、とにかくスマホから110番にかけた。  警察が到着し、家の中やドアや窓の鍵なんかを調べた。窓の鍵はガラスをくりぬかれて開けられていた。今朝から帰宅までのことを聞かれたが、特別伝えられることはなかった。僕は一日仕事に行っていただけなのだから。 貴重品を確認したが、特に盗まれてはいなかった。警察が帰った後、かなり時間をかけて部屋を片付けたが、やはりなくなっているものはなかった。 物取りが目的ではなく、僕の部屋に入るやつがいるだろうか。気味が悪い。  待ち合わせの高級居酒屋の個室で、彼女は水を一口飲む。室内であるにも関わらずサングラスをしている。金髪ボブの髪はユニークだが、鼻が高く整った顔立ちの彼女にはよく似合っていた。 店のスタッフに案内され、部屋にスーツを着た男性がやってきた。 「ご要望の書類が準備できましたので、お渡しします。」 彼は茶封筒を革の鞄から取り出して、女性に渡した。彼女はネイルで美しく彩られた指先で封筒を開け、中身を取り出し確認した。 「ありがとう。そろっているわ。支払いは明日中に済ませればいいわね?」 彼女の言葉を聞き、男は満足そうに頷き何も頼まずそのまま店をあとにした。 男がいなくなった後、彼女はサングラスと金髪のウィッグを外した。まとめていた長い黒髪を下す。 「よかった。まだ持っていたとはね。でもまあ、きっとなくなったことには気付いていないでしょう。」 万が一にもこんなものが世に出回って、バラエティ番組でいじられたり週刊誌で取り沙汰されたりしたら、たまったものではない。 彼女は最近急速に売れ出した若手女優。たった今、重要な書類を取り戻すことに成功した。そこには彼への思いが、それはもう言葉豊かに、詩的に、なんなら宗教的にと言っても良いくらい書かれていた。高校時代に彼に渡した、ラブレターには。
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