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演技ではない。
本当においしいのだ。
「お義母様、この鯖、サバ缶の鯖ですよね?」
「そうよー、鯖の水煮缶。汁も全部放り込んでんのよ」
温かい汁にも鯖の美味さが溶け込んでいる。
大きな塊の鯖が入っていたが、こちらも美味しかった。
苦手と思っていたあの独特な臭みも、大して気にならない。温めているから?
鯖の美味さが、私の『良い嫁』の定義を正してくれる。
「スミマセン、本当は私サバ缶が苦手だったのですが、これはとっても美味しいです」
「そりゃよかった。もっと食べていいよー」
私の言葉にお義母様は笑顔になってくれた。
そして、本当は梅干もシソも苦手であることを伝えた。
「我慢することないのに!ごめんね、苦手なものを出して」と恐縮されてしまった。
一瞬でも疑ってしまった自分を恥じたい。
更に「苦手なもの、他にはない?先に聞いておけばよかったね」と気遣わせてしまった。お義母様、ありがとうございます。
そんなお義母様と、私はずっと仲良くできたらいいな、と心から思った。
◇ ◇ ◇
後日、鯖の水煮缶を使って具沢山味噌汁を作ってみた。
美味しい…美味しいけど、あの時お義母様が作ってくれた鯖の味噌汁とは雲泥の差だった。
「おかしいな…。あの時ほど美味しくない」
その味の違いはきっと、愛情の込め方なのかもしれない。
愛する息子と、その嫁に美味しいものを食べて欲しいと思う、母の愛。
…と、主婦歴何十年という経験かな。
「まだまだだな、私」
今度お邪魔する時には、お手伝いをしてお義母様に料理を習いたい、と思った。
◇ ◇ ◇
味の違いの答え : お義母様はお高いサバ缶を使っていた。
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