3

1/1
前へ
/12ページ
次へ

3

 いつものように仕事後真っ直ぐ家へと帰宅するため、いつもの道を歩いていた。辺りはもう真っ暗で、人通りもない。通い慣れたこの道で今更怖いものなんてないのだが。  だけど突然背後から何かが落ちる音がして、身体がビクッと反応した。反射的に後ろを振り返る。誰もいなかった。しばらく目を凝らして辺りを伺う。電信柱の陰、曲がり角を睨みつけるように見たが、人の気配はなかった。気のせいか、と思いふと視線を下に向けた時、視界に入り込んだものに、目を見開いた。もちろん見るのは初めてで、むしろそれが本物かも分からない。心臓の音がやけに騒がしかった。恐る恐る近付いてしゃがみ込む。ゴクリと喉が鳴った。表紙に何か書いてあるが、暗くてよく見えない。立ち上がってささやかに付いている外灯の下へ向かった。灯りに照らして文字を確認した時、僕は長年の夢が報われた気がした。誰にも盗られないように胸にしっかりと抱えて、家路を足早に歩いた。  玄関を開けて、靴を脱がずに何度もノートを確認する。表紙には確かに、 ――蘇らせノートーー  と書かれている。元々落ちてあった偽物ではなく、僕は確かに何かが落ちる音を聞いた。間違いなく本物だ。嬉しすぎて顔の緩みがおさまらない。鍵をしっかり閉めてから、すぐに部屋の奥にある机に向かい椅子に腰かけた。まじまじとノートを見つめる。中には今まで生き返った人の名前が書いてあるのだろうか。ゆっくりとページを捲ると、意外にも中は真っ白だった。使い方は正直分からない。同姓同名なんて山のようにいるだろうし、小学校名とか特徴とか色々情報を書くべきか、真剣に考える。  失敗なんてしたら最悪だ。とりあえず落ち着こう。ネットに、今まで拾った人が情報を載せているかもしれない。名前以外に書くべきことを今日はとことん調べよう。仕事でクタクタなはずなのに、その日は一睡もできなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加