前菜「ヤヨちゃんは、注文が言えない」

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 さて、ヤヨちゃんは困っていた。  目の前には入力端末を持った店員。  20歳のヤヨちゃんよりも恐らく若い18歳くらいの女の子。  何も喋らないヤヨちゃんに対して、最初は不思議そうにしていたが、それは徐々に苛立(いらだ)ちへと変わっていく。  店員が苛立つのも無理はない。呼び出しボタンを押しておいて、一向に注文を言わないのだから。  ヤヨちゃんの全身からは大量の汗。顔は真っ青。顔に合ってない丸眼鏡が、汗のせいでずり下がってくるので、人差し指で押し上げる。それでも落ちてくる、ずるりと。  早く帰って来て、とヤヨちゃんはお手洗いの方へ目を向ける。  あの、と店員が言った。「ご注文まだお決まりではないのですか?」  否定する意味で首を横に振る。注文は友達の分と合わせてすでに決まっている。  手元にあったメニューを指差す。指先が震えていた。  まずは友達の注文を思い出す。確か、和風ハンバーグセット。パンとコーンスープ。 「和風ハンバーグセットですね」  明らかに不愉快そうな声。  ヤヨちゃんは、こくり、と頷く。 「セットはパンとライスどちらになさいますか?」  指でパンと書かれた文字をぐるぐると囲う。
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