苦手な先生

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苦手な先生

 結局先生は私の家に泊まることになった。病院のコンビニへ行った先生は、やたらと大きなビニール袋を手に持っていた。その中から小さいペットボトルを取り出して 「はい、持ってて」と差し出した。  気のきく人だな、と思った。私は末端神経冷え性で、それこそ死人レベルで指先が冷えるのだ。さっきまで暖かい室内にいたとしても、夜風に当たればすぐに冷える。上着を着て来なかったから、体も寒い。たまたまだろうけどレモン味のこの飲み物も好きだ。でも、今の私には必要のない物。  寒さに浸っていたい気分だから。  タクシーに乗るほどの距離ではないので、病院から家までは歩いて帰った。その間ずっと私達は無言で、先生は手に持った袋をガサガサ鳴らしながら私の半歩後ろをたどっていた。  家に到着すると、玄関の扉を開けて、つい癖で 「ただいま」  と口が勝手に動いた。    前を向いたまま、振り返ってからどう誤魔化そうかと考えていたら、先生が靴を脱いで私を追い越した。そして、振り向いてこう言った。 「おかえり」  静かで綺麗な笑顔だと思った。  ふと、頬に何かが流れる感覚がした。 「……なんで」  溢れて止まらないそれは、廊下の板にぽたっと音を立てて次々に落ちていく。先生はほんの少しだけ眉を八の字にしながら黙って私を見ていた。 「風邪を引く。そろそろ中に入ろうか」
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