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五章 告白
家に帰って、シャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かして、歯を磨いて。その間もずっとあの表情は、頭から離れなかった。泣き出してしまいそうに見えたあの一瞬。多分、いやきっと、気のせいではなかったと思う。
一通り寝支度を終えてする事がなくなると、いよいよ居た堪れなくなってきて、僕はスマホを手に取った。
僕は小さな頃から絵を描くのが好きだった。家族の絵を描くと家中が笑顔でいっぱいになった。それが全ての始まりだったように思う。小学校の頃には当時流行っていたキャラクターをノートに描けば、たちまちクラスのヒーローになれた。中学生になる頃には頼まれて似顔絵を描くと「写真みたい!」と、クラス中大盛り上がりになったものだった。
だから事あるごとに書かされたアルバムやら宿題の「将来の夢」の欄には、いつも少しずつ形を変えながらも意訳すれば全て同じものがあった。
「えをかくひと」僕は小さな頃から、絵描きになりたかった。
色々なコンテストに参加してきた。小学生の頃には表彰されることも多かった。大きくなるにつれて、自分としては少しずつ上手くなっていっているつもりでいた。それなのに。中学高校と進級するたびに、僕の絵が賞に引っかかる機会はどんどん減っていった。才能ある人がメキメキと頭角を表してきて、あれよあれよと追い抜かれていく感覚だった。そして高校の頃に挑んだコンテストではついに、僕の絵は大賞どころか佳作にさえ引っかかることはなかった。
代わりに受賞作品達を見て思い知ったんだ。この世には凡人の僕なんかが努力したところで到底敵わないような天才が、たくさんいるのだと。
僕の絵は確かに上手と言われる部類には入るのかもしれない。けれどそう、僕の絵は「写真みたい」なのだ。それなら別に、写真でも事足りてしまう。
僕の絵はただ平面に広がるばかりで、見る人に迫り訴えかけるような魅力がない。けれど、立派な額縁に入れられ飾られた受賞作品達は違った。見ているこっちの心を作品の中からむんずと掴んでくるような、そんな魅力があった。僕の絵には、それが、ない。
それがどうしてなのか、僕にはずっとわからなかった。
ならばどうすればいいのか、それも、僕にはついにわからなかった。
さっき彼女に絵を描くのを見せてほしいと言われた時、僕は怖かったんだと思う。僕の絵を一度はあんなに嬉しそうに胸に抱えてくれた彼女。そんな彼女の前でまた絵を描いて、今度は失望させてしまったら。そんなことを考えてしまった。
けれど考えてみれば僕はもう別に、プロになろうってわけじゃない。素人の落書きにガッカリするも何もないだろう。それに彼女にあんな悲しい顔をさせてしまうのなら、絵の一枚や二枚描いてあげたって良いじゃないか。そう、思ったから。
『明日十三時頃から、あのカフェのテラスで絵を描こうと思います』
彼女とのトークルームにそう打ち込んで、その勢いのまま僕は送信ボタンを押した。ホーム画面に戻ると、時計はちょうど二十時を灯していた。
これまではいつだって数分と間を空けずにすぐ返信が来たのに、今日はいつまで待っても既読すらつかなかった。もしかして嫌われてしまっただろうか。今日のデートは楽しくなかっただろうか。ベッドから見上げた天井、まだ慣れないその模様がぐるぐると回るようだった。
頭は色々と考えてしまって冴え渡るのに、久しぶりに丸一日出歩いて疲れきった僕の体は、その後薄情にもすんなりと眠りに落ちた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
『行きまーす!おはようございまーす!』
目覚めて一番に確認したスマホに、彼女からのメッセージが届いていた。
「なんだ、よかった」
昨日の夜の心配事は全部取り越し苦労だったのだと胸を撫で下ろす。昨日は彼女も疲れていたに違いない。眠ってしまっていただけだったんだろう。
『おはよう』の返信をして、僕は準備に取り掛かった。今度は少し明るめの色の上着に袖を通して。
カフェには思いの外早く着いた。あの日のあの席、遊歩道の桜は昨日ですっかり散ってしまったようだ。待ち合わせの時間まではあと二十分もあった。手元には道すがらの店で買ったばかりのスケッチブック。真っ白なページ、久々のザラザラとした感触。僕の足元に跳ねるように近づいてきたスズメが一羽。首を傾げ見上げてくる仕草がなんだか彼女に似ているように思えて、それで僕は手始めにその子を描いてみることにした。
動物を描くのは好きだ。人を描くことの次に好きだし、得意だとも思う。対象に命や感情がある方がまだ、そのまま描き写すことしかできない僕でも魅力的に描ける気がして。
「シュンさーん!」
春風に乗って聞こえてきたあの声。今日は淡い黄色のスカートに白いブラウスを着た彼女が、ヒョコヒョコとやってきて僕の向かいの席に座った。
「何描いてるんですか?」
テーブルに乗り出すように僕の手元を覗き込んでくる彼女は、何故か今日も花びらを一枚頭に乗せていた。
「今しがた君にびっくりして飛んでっちゃったスズメだよ」
冗談ぽくそんなことを言うと、大げさに跳ねた彼女の肩。
「スズメ?...え!ごめんなさい!私のせいでいなくなっちゃいましたか?」
申し訳なさそうにハの字になる眉、への字に曲がる唇。相変わらずころころと変わる表情に、思わず頬が緩む。
「いいんだよ。鳥はよく描いてたから見なくても描ける。それにほら、もうほぼ完成」
そう言ってスケッチブックを彼女の方に向けると、さっきまでの表情が一変、彼女はぱぁっと顔を輝かせて感嘆の声をあげた。
「すごい!可愛い!やっぱシュンさん...絵上手ですね!」
昨日美術館に並んでいた絵に向けられていたのと同じくらいキラキラした視線が今、僕が描いた絵に注がれていた。その表情に、単純な僕は思わず勘違いしてしまいそうになる。僕の絵ももしかしたら、捨てたもんじゃないんじゃないか、なんて。そんな心を抑えて僕は、必死で平静を装う。
「ありがとう」
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑って再びスケッチブックを覗き込んだ。僕の絵はこれくらいが良いんだ。目の前にいる誰かを笑顔にできるくらいの絵。それくらいで、ちょうと良い。彼女が喜んでくれるのなら、今日のところは描いていよう、そう思った。
「それで、何を描こうか」
せっかくだからリクエストに応えようと思った。すると彼女は仰々しく考え込み始めた。そして何か思いついたようにピンと人差し指を立てる。
「あ!桜!桜を描いてるのを見てみたいです!」
「桜?...けど桜はもう、昨日でほとんど散っちゃったし」
テラス席から見える桜並木は、寂しいほどにほとんど裸になってしまっていて。昨日のうちに踏みしめられたのであろう地面の花びらも、薄汚く色を変えてしまっている。
けれどそんな景色を映す彼女の表情は、数日前の満開の桜並木を見ていた時と変わらず輝いていた。
「それが、いいんです」
「へ?」
「それがいいんです!散っちゃった桜を、シュンさんに描いて欲しいんです」
彼女の言うことは時々不思議で。けれど彼女がそれで喜んでくれるなら、別にそれで良いと思った。僕達は軽くランチを済ませると、大学の広場に移動することにした。
図書館と研究講義塔の間に設けられた広々とした空間。その真ん中には一本、とても立派な桜の木が植えられている。周囲には芝生の上で寝転んでいる学生や、地べたに何やら敷いて談笑している学生達。みな思い思いにくつろいでいた。僕達は二人、ベンチに座ることにする。
「この桜でいい?」
「はい!ここすごく素敵!気に入っちゃいました!」
筆箱を取り出しスケッチブックを開いて、僕は下書きを始める。彼女はといえば隣で足元のタンポポやシロツメクサを摘んでは編みながら、時々僕の手元を覗き込んできた。
久々の人前で描くという行為に最初は緊張していた僕だったけれど、それぞれが自由に過ごしているこの空間は、想像していたより心地がよかった。
「桜って、あっという間に散っちゃいますよね」
「うーん、今年はまだ雨が降らなかっただけ長持ちしたんじゃないかな」
「けど、一週間くらいしかもたないんですね」
「そうだねー」
穏やかな日差しの中、僕達はぽつりぽつりと他愛もない話をした。そんな僕らを柔く避けるようにして、風はさらさらと春を運んだ。僕の足元、誰にも踏まれず生き残った桜の花びらが、戯れに風を掴んでいる。時折どこか遠くで湧き上がる学生達の笑い声が賑やかだった。
「何を描くのが一番好きですか?」
「一番は人かな?次に動物」
「十八番はなんですか?」
「うーん、ポンかな?」
「あぁ、私に似てるあのワンちゃん」
彼女が隣でくつくつと楽しげに笑った。その手の中の草花が、それに合わせてふるふると震えた。
「え」
そう。彼女の言った通り、ポンはうちの実家で飼ってる犬だ。初めて会った日に彼女が着ていた茶色いセーターとよく似た色のプードル。あの日の僕が咄嗟に「似ていたから」なんて苦し紛れな言い訳をした、あの犬がポンだ。けれど、どうしてわかったんだろう。
「...名前まで教えてなかったよね?どうしてわかったの?」
別にただ少し不思議に思って、聞いてみただけだった。けれど僕の言葉に、花を編む彼女の手はビクッと止まった。
「え?...あ!えっと、なんか...なんとなく、そうかなって思ったんです!」
そう言った彼女が、僕を初めてシュンと呼んだ時と同じように動揺しているのが手に取るようにわかった。彼女が慌てた時の癖なのか、その手が口元で大袈裟に動く。
「い、いやぁけど、今日は晴れて本当に良かったですよね!すごいスケッチ日和!」
早口でそう捲し立てると、彼女はわざとらしいほどに大きく伸びをした。無理やりすぎる話題転換。彼女は助けを求めるように、足元に視線を走らせた。
「あ!あれ、四葉かな!?」
言うが早いか勢いよく立ち上がり、地面にしゃがみ込んだ彼女。
「あぁ、違った!三つ葉でした!」
そう言ってそそくさと戻ってきて、彼女は再び隣に座った。
別にポンなんてペットらしい名前だし、それでなんとなくわかったのかなと思っただけだった。けれどそんな風にされてしまうと、何かあるのかと余計に気になった。
僕は彼女の慌てように呆気に取られて、彼女はといえば依然気まずそうに足元を見つめて、そうして数瞬の沈黙が流れた。僕が口を開こうとしたその瞬間、校内放送が僕達の間の不自然な静けさをかき消した。
――経済学部三年の高田秀史くん、至急教務課までお越しください。経済学部三年の...
「そ、そういえば!シュンさんは何学部なんですか?」
これだ!とでもいうように顔を上げて、彼女がそんなことを聞いて来た。昨日僕からの同じ質問に「美術学部」だなんて答えた彼女の表情が重なる。とにかく彼女が話を変えたいのだということだけはわかってしまって、だから僕はその質問に答えることにした。
「あぁ、法学部だよ」
「じゃあ将来は、弁護士さん...とか?」
「うーん、いや。普通に就活して、普通に就職するんじゃないかな」
「そっか...」
再び途切れてしまった会話。本当のことを言えば、将来の話はしたくなかった。今度は僕の方が気まずくて、彼女と目を合わせずにすむように、忙しく描く手を動かした。スケッチブックの視界の隅。彼女がこちらを伺うように、そっと顔を上げたのが見えた。
「本当は...絵の道に進みたかった?」
おずおずとどこか申し訳なさそうに零れた声が、僕の手を止めた。
「え...」
本当に、なんなんだ。彼女はなんでもわかってしまう超能力者か何かなのだろうか?さっきのポンのことにしろ、彼女は知りようも無いはずの僕の夢にしろ。
諦めの悪い心を悟られたくなくて、僕はあえて軽く返事をした。
「あぁ、うん。よくわかったね」
それなのに彼女は僕の顔を覗き込んで、その眉を悲しそうに下げた。今の僕はそんなにも、痛々しく映っているのだろうか。
「シュンさん、絵描いてる時すごく楽しそうですもん。わかりますよ」
「そう、かな」
「私はシュンさんの絵、好きですよ?」
「...ありが、とう」
「私...シュンさんならなれると思うんです、素敵な絵描きさんに!」
身を乗り出しそんなことを言う彼女の顔は、訳がわからないほどに必死だった。僕の心の葛藤を全部知っているんじゃないかと思ってしまうほどに、真剣そのものだった。
その言葉に、表情に、嘘がないことくらいはわかる。彼女はきっと、本当にそう思って言ってくれているのだろう。けれど。
「...この世界にはさ、僕の手の届かないような天才がたくさんいるんだよ」
「そう、なんでしょうか...」
消え入りそうに絞り出されたその声。隣を見れば、彼女はひどく悲しそうな目をしていた。
どうして君がそんな顔をするんだよ。さっきまであんなに楽しそうに話したり慌てたりしてたじゃないか。
彼女にまたあの笑顔で笑って欲しくて、僕は咄嗟に明るい声色をつくった。
「例えば僕さ、動物や人はまだしも風景画が苦手なんだ。昔よく河原で練習したんだけど、いまだに苦手」
「そう、なんですか?」
「うん、ほんと、青春投げ捨てて河原に通ってたんだよ?学校終わりに毎日のように。放課後デートなんて無縁の中高時代だった」
そう言って笑ってみせると、彼女も顔を上げて小さく笑顔を見せてくれた。
「ふふふ...女の子に誘われたことないって言ってましたもんね」
「うんうん。本当にそうなんだよ」
「けれどシュンさん結局、風景じゃなくて犬を散歩してるお姉さんとか、囲碁してるお爺さんとか、人ばっかり描いてたじゃないですか」
「...え?」
「え?...あ!」
確かにそうだ。そうなのだ。僕はあの頃、河原に行くたびに苦手な風景画を練習しようと思うのに、気づけば人を描いていた。けれどどうして、どうしてそれを彼女が知ってるっていうんだ。
「どういうこと?どうしてそんなこと、ハルノさんが知ってるの?」
「いや、あの...そう!私も昔よく河原行ってたので!えっと、石投げて水切りの練習してたんです!」
「...ねぇ」
真剣な顔で彼女を見つめると、彼女は僕から逃げるように目を逸らした。
けれど。ここまで来るといよいよおかしい。気づかないふりも限界だ。ポンのこと、夢のこと、河原の絵のこと。どう考えてもここで出会う前から彼女が、僕のことを知っていたとしか思えなくなってきた。
「ハルノさん、僕達前にどこかで会ったことある?」
「...ない、ですよ」
「じゃあどうして?ポンのことも、河原の絵のことも、どうして知ってるの?」
「それは...」
本当に、何なんだ。いよいよ泣き出してしまいそうな彼女の手は、ふるふると震えていた。
「ねぇハルノさん。君一体、何者なの?」
噛み締められた唇、返事はない。いつも通りのキャンパス。学生達で賑わう中、僕達の間にだけ重い沈黙が続いた。
どれだけ待っただろう、やがて決心するように深く息を吸った彼女がついに口を開いた。
「ごめんなさい。騙そうとしたわけじゃないんです」
こちらを見つめる彼女の目は潤んでいて、それだけで僕はとても悪いことをした気分になってしまうんだから本当にズルい。
「...やっぱ私、嘘下手だなぁ...ごめんなさい」
そう言ってこっちが泣きそうになるくらい切ない顔で彼女は笑った。そんな彼女を見ているだけで胸の奥が痛いほどに締め付けられるのは一体何故なんだろう。
彼女は編み終えた小さな花冠を震える手で頭に乗せた。そして僕に向き直ると、困ったようにこう言った。
「私ね...天使、なんです」
潤んだ薄茶色の目が僕を映す。
「...天使?」
白いブラウスに春のうららかな日差し。透き通る肌は眩しいほどで。春風にそよぐ柔らかな髪に花の冠を乗せた。その姿は天使だと言われれば、確かにと納得してしまいそうなほどに美しかった。けれど。
「なに、それ」
また誤魔化されているのかと思った。けれど僕を見つめ返してくるその目は、あまりに真っ直ぐで、それでいてとても悲しそうだった。
「本当なんです...本当。ちゃんと説明するので、今日このまま日が沈むまで一緒にいてくれませんか?そしたら、証明できますから」
天使は光の化身だから、日が沈むとすっと体が消えるのだと彼女は言った。それで日が登ると同時に目覚めるように、毎日同じ場所で意識を取り戻すのだと。
それから彼女は日が沈むまで、天使についての色々なことを教えてくれた。
「シュンさんは、生まれ変わりとかって信じますか?」
「えっと...考えたこともない、かな」
「急にこんなこと言っても、信じてもらえないかもしれませんが...人は、何度も生まれ変わるんです。そのたびに魂は、人、天使、人、天使と輪廻を繰り返します」
「天使...」
「はい。それが今の私です」
空が端から暖かな色を帯び始めていた。広場にたむろしていた学生達も、一人また一人と帰ってゆく。
「天使は人と違って、一ヶ月と期限が決まった寿命を与えられます。これは誰かの願いを叶える手助けをすることで、来世で人になった時のための徳を積む、そのために与えられた期間だそうです」
「来世への徳...」
「私は天使として、シュンさんの担当に割り当てられました。それでシュンさんの願いを叶えるために、こうしてここにいます」
「もしかして、僕に絵を描かせようとしたのって...」
「はい、シュンさんの絵描きになるっていう願いを、叶えるためです」
「あぁ、だから...」
「けれど!私がシュンさんの願いを叶えたいのは、私が天使として来世への徳を積みたいからなんかじゃありません!」
さっきはあんなにも泳いでいた目が、今は真っ直ぐに僕を映していた。
「じゃあ...どうして?」
「シュンさんは覚えてないと思いますが...私達、前世で...知った仲でした」
「え?」
「人は生まれ変わる前に、前世の記憶をリセットされてしまいます。だからシュンさんは私のこと覚えてないでしょうけど...」
「じゃあハルノさんはどうして、僕のことをその、覚えてるの?」
「人から天使になる時には、前世の記憶はそのまま受け継ぐんです。記憶がなくては、願いを叶える手助けをするどころじゃないから、だと思います。それと天使は願いを叶える対象人物の記憶も与えられます。業務を円滑に進められるように」
「じゃあハルノさんは、僕の記憶を?」
「はい、全部持ってます」
「あぁ、だからハルノさんは僕のこと、色々知ってたんだね」
「はい...」
消え入りそうにそう言って頷いた彼女の横顔は夕陽に照らされていて、あの日のデート終わりと同じように儚げに映った。「私は人から生まれ変わった天使です」だなんて有り得ないことを言われているはずなのに、目の前の彼女は本当に、日没とともにするりと消えてしまいそうで。彼女が言っていることは全部本当なんじゃないかと、心のどこかで思い始める僕がいた。
日没は、刻一刻と近づいていた。
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