3月15日

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保育園が終わり自室に戻った私は、机の引き出しからあるものを取り出した。 それは…『20XX年3月2日』が刻まれた金色のプレート。 美雪ちゃんが私に何かを話そうとした日のプレート。 保育室で聞き回った質問に対し、私が求めていたことを答えてくれた子がいた。 『花実ちゃんが前に持ち帰ってたのを私、見たよ。たしかお遊戯会の少し後』 もしも、3月2日に、美雪ちゃんが私に伝えようとした本当の内容が、 引っ越しのことだとしたら、 3月2日の私は、きっと今の私と同じことをしようとすると思ったのだ。 美雪ちゃんの衣装を縫い直して、彼女に返すこと。 そしてその考えは、妖精さんの言葉で確信に変わった。 妖精さんの言う、尖った針はきっと裁縫針だ。 3月2日、引っ越しのことを聞いた私は、 衣装を家に持ち帰ったのだ。そして、彼女の衣装を縫い直したのだ。 けれど…。 部屋のどこを探しても、その衣装は見つからなかった。 そして私は手元のプレートを見る。 だから、このプレートを、妖精さんに返すことにしたのだ。 私の記憶がプレートを持っていることでなくなっているなら、 プレートを妖精さんに返すことで、その日の記憶を取り戻すことができるのではと考えたのだ。 私は、机の上の妖精さんの前に立つと、重い口を開いた。 「ねえ、妖精さん」 「なんなのだー!!」 「私、謝らなきゃいけないことがあるの」 そして、金色のプレートを妖精さんの前に差し出す。 「ごめんなさい、私、妖精さんのプレートを盗みました」 ぽかんとした表情で口を開ける妖精さん。 「だから、お願いです。私の…私の3月2日の記憶を返して下さい」 深く頭を下げて、ぎゅっと目をつむる。 瞼の裏で、瞳がかすかに滲むのを感じた。 初めから。 こうすれば良かったのだと思う。 本当に大切なものが何か、今の私ならわかるような気がした。 その時、私の肩に何かが乗った。そして妖精さんの声が耳元に響く。 「記憶を失うのは、罰なのだ」 私はきゅっと瞼に力を込める。 やっぱり、だめなんだーー。 わかりました、そう呟こうとしたその時、 「でも」 妖精さんが言葉を遮る。 「罪は、謝れば許されるのだ」 顔を上げ、肩に乗る妖精さんを見ると、彼は穏やかな表情で微笑んでいた。 そして、彼はプレートを持つと、私の額に静かに当てたのだった。
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