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3月1日
「花実!」
保育室の中で体育座りをしていた私は、はっとして顔を上げると、美雪ちゃんが呆れた表情で私を見ていた。
「ほら、卒園式のこと、せんせい話してるから」
美雪ちゃんは、顎を前にくいくいっと上げた。
「うん、そうだった、あはは」
私が顔を前に向けた時、ホワイトボードを見ていた先生が
ちょうどこちらを振り向いた。
「卒園式の予定はこのようになっています。
年長組の最後のイベントですから、がんばりましょう。
…お遊戯会が終わったからといって、気を抜いちゃだめですよ」
ぶーぶーと不満を漏らす男の子たちを見ながら、
美雪ちゃんが「うるさーい!」といつものように声を張り上げた。
私は苦笑いを浮かべながら、先生のある言葉を何度も繰り返し思い返していた。
お遊戯会。
それはさっきまで見ていた夢の日のことだった。
「まったくもー、男の子は…、ねえ!花実。…花実?」
「あ、うん、ねえほんとだね」
美雪に話しかけられたことに気づき、我に返る私。
頭をブンブンと横に振る私。
「どうしたのよ」
「えへへ」
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