3月1日

5/5
前へ
/12ページ
次へ
夜11時。 電気を消した室内のベッドの上で、妖精さんの言葉を一人思い出していた。 『その日のプレートを泥棒しちゃえばいいのだー!』 プレートを持つことが許されているのは時の妖精だけらしい。 もしも人間がプレートを持っていると、その人間は代償としてプレートの日付の記憶を失う。 だからプレートを盗んで、見たくない日の記憶を無くしてしまえばいいというのだ。 「そんなのおとぎばなしだよ」 私は思わず笑う。 机の上から、ぐーぐーと妖精さんの呑気ないびきが聞こえた。 しばらくの間、私は考えていた。 美雪ちゃんとの楽しかった日々と、彼女の怖い表情を交互に思い出す。 明日、彼女との楽しかった日々が終わりを告げる。 それはどうしても避けれらないけれど。 明日を見ないことは、できるんだね。 私はベッドから立ち上がった。 机の上で眠る妖精さんの前に立つと、彼の横にある袋を掴み、 中のプレートを机の上に広げる。 明日を示す『20XX年3月2日』のプレートをなんとか見つけ出すと、 それ以外の日付を袋の中にしまった。 「弱くて…ごめんなさい」 私は静かにそう呟くと、手の中のプレートを強く握りしめた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加