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夜11時。
電気を消した室内のベッドの上で、妖精さんの言葉を一人思い出していた。
『その日のプレートを泥棒しちゃえばいいのだー!』
プレートを持つことが許されているのは時の妖精だけらしい。
もしも人間がプレートを持っていると、その人間は代償としてプレートの日付の記憶を失う。
だからプレートを盗んで、見たくない日の記憶を無くしてしまえばいいというのだ。
「そんなのおとぎばなしだよ」
私は思わず笑う。
机の上から、ぐーぐーと妖精さんの呑気ないびきが聞こえた。
しばらくの間、私は考えていた。
美雪ちゃんとの楽しかった日々と、彼女の怖い表情を交互に思い出す。
明日、彼女との楽しかった日々が終わりを告げる。
それはどうしても避けれらないけれど。
明日を見ないことは、できるんだね。
私はベッドから立ち上がった。
机の上で眠る妖精さんの前に立つと、彼の横にある袋を掴み、
中のプレートを机の上に広げる。
明日を示す『20XX年3月2日』のプレートをなんとか見つけ出すと、
それ以外の日付を袋の中にしまった。
「弱くて…ごめんなさい」
私は静かにそう呟くと、手の中のプレートを強く握りしめた。
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