3月15日

1/3
前へ
/12ページ
次へ

3月15日

それからの日々は嘘のように早く過ぎていった。 気づいたら、もうあと数日で卒園式だった。 あれから、美雪ちゃんと話すことはついに一度もなかった。 それは、私たちがお互いに避けていたというのが一つ。 しかし、もう一つ大きな理由があった。 美雪ちゃんが保育園にあまり来なくなったのだ。 ある日、私はその理由を同じ組の女の子に聞いた。 すると女の子は驚いたように目を丸くする。 「え、知らないの。花実ちゃんには真っ先に言いそうなのに。 最近準備で忙しいみたい」 「準備?」 そして、続く彼女の言葉に私はしばらくの間、呆然としてしまったのだった。 美雪ちゃん、卒園したら遠くにお引っ越しするんだってーー。 ーー 美雪ちゃんは今日も保育園をお休みしていた。 美雪ちゃんと会えるのは、あと何回なのだろう。 午前中、先生の絵本話を聞きながら、そんなことを考えた。 お遊戯会で美雪ちゃんの衣装を切り裂いて、優花ちゃんたちに意地悪されたところを助けられて、でも私は、美雪ちゃんに責められるのが嫌で、彼女に会うことを避けた。 そして、今日まで来た。 彼女に本当に伝えなければいけない言葉を、伝えもせず。 『花実ーー!』 その時不意に、満面の笑みで私に話しかけてきてくれる、 美雪ちゃんの笑顔が浮かぶ。 もう二度と、あの笑顔を見れないかも知れなくても、 それでも私は伝えたい言葉があった。 その時、私はあることを閃く。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加