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3月15日
それからの日々は嘘のように早く過ぎていった。
気づいたら、もうあと数日で卒園式だった。
あれから、美雪ちゃんと話すことはついに一度もなかった。
それは、私たちがお互いに避けていたというのが一つ。
しかし、もう一つ大きな理由があった。
美雪ちゃんが保育園にあまり来なくなったのだ。
ある日、私はその理由を同じ組の女の子に聞いた。
すると女の子は驚いたように目を丸くする。
「え、知らないの。花実ちゃんには真っ先に言いそうなのに。
最近準備で忙しいみたい」
「準備?」
そして、続く彼女の言葉に私はしばらくの間、呆然としてしまったのだった。
美雪ちゃん、卒園したら遠くにお引っ越しするんだってーー。
ーー
美雪ちゃんは今日も保育園をお休みしていた。
美雪ちゃんと会えるのは、あと何回なのだろう。
午前中、先生の絵本話を聞きながら、そんなことを考えた。
お遊戯会で美雪ちゃんの衣装を切り裂いて、優花ちゃんたちに意地悪されたところを助けられて、でも私は、美雪ちゃんに責められるのが嫌で、彼女に会うことを避けた。
そして、今日まで来た。
彼女に本当に伝えなければいけない言葉を、伝えもせず。
『花実ーー!』
その時不意に、満面の笑みで私に話しかけてきてくれる、
美雪ちゃんの笑顔が浮かぶ。
もう二度と、あの笑顔を見れないかも知れなくても、
それでも私は伝えたい言葉があった。
その時、私はあることを閃く。
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