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ギャンブル中毒だった父親は、あろうことか家のお金を持ち逃げし、大量の借金だけ残して失踪したのである。母親はそんな父親を“最低最悪の泥棒”と呼び、娘に呪いの言葉を聞かせていた。娘はそんな母親に育てられたこともあり、“どんなに貧乏でも泥棒だけはしてはいけない”という母親との約束を守り続けていたという。
しかし、貧しい生活にも限界は来る。
母親は最終的に貧しさに耐えきれず、娘とアパートで無理心中をしてしまった。近隣住民と交流がなかった彼女らは発見されるまで時間がかかり、見つかった時は遺体が腐乱してひどい有様だったという。
本当は無理心中ではなく、戻ってきた父親による強盗だったのではないか?そんな噂があったが、定かではなかった。父親は未だに行方不明のまま、生死さえわからないからである。
確かなことはひとつ。
家には一銭の金もなく、さらには少女が大事にしていたお人形さえ失われていたという事実だけ。
「人形がどうして無かったのか、それはわからないらしーんだけど」
わざとらしく声を顰めて、咲絵は言った。
「ただ、女の子は大事なお人形が盗まれたと思ってて、今でも探してるんだって。だから、その人形を持ったまま三日が過ぎると、その人のところに女の子が現れて……“泥棒”を殺しに来るんだって!」
「じょ、ジョーダンやめてよ!なんで私が殺されなきゃなんねーの!?こんな人形知らないし、いつの間にかバッグに入ってただけなのに!」
「誰かがきっとアンタのバッグに入れてったんだよ。綾子、人に恨まれるようなことしたんじゃないの?……その呪いを回避するためには、三日以内に別の人に人形を押し付けるしかないってゆーからさー。アンタなら呪われてもいいって思った人がいるんだって、きっと」
「そんなぁ……!」
酷すぎる。元々怖がりな私は、目の前が真っ暗になったのだった。呪われるのも嫌だが、私なら呪い殺されてもいと思った人がいるかもしれないもいう事実そのものが恐ろしすぎる。
「ど、どうしよう……」
涙目になった私に、咲絵は“まあまあ落ち着きなってー”と呑気に笑ったのだった。
「都市伝説だから、マジかどうかはわかんねーし?それに、三日以内にと誰かに押し付ければいいだけなんだから、そんなに気にしなくていいってー」
「他人事だと思って……」
呪いが本当か本当でないのか、なんて私にわかるわけがなかった。このときはパニックになっていて、お寺や神社に相談してみるという選択肢も思い浮かばなかったのだ。
ただ、この日の夜はお人形と呪いのことばかり考えていたせいか、完全に人形の夢を見てしまうことになる。巨大な赤い人形に、夜の学校で追いかけられるという夢だ。逃げても逃げても追いかけてくるそいつに、結局捕まって足で踏み潰された挙げ句、頭からバリバリと食われてしまう夢である。非現実的なのに、正直漏らすかと思うほど怖かった。
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