今夜、あなたを奪いに行きます

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 ***  果たして、本当にルナティックは現れるのか。窓の外の月を見ながら、セレナは布団に入った。明日が満月ということもあって、空にはいつもより大きく、そして眩しい月が輝いている。 「お嬢様、本当によろしいのですか。部屋の中で警備をしなくても」 「結構ですわ。ドアの前も窓の前も、それから門の前も塀の前も、あらゆるところに警備兵を置いてくださってるのでしょう?この万全のセキュリティで、一体どうやってルナティックが侵入できるというのです?それとも、この部屋の中にはわたくしも知らない隠し通路があるとでも?」 「い、いえ。そのようなことはないはずですが」 「なら、気にすることなど何もないですわ。わたくし、今夜はとても眠いの。一人でぐっすり寝かせて頂戴」 「……はい」  渋々メイド頭が引き下がり、部屋の外に出て行くのを、セレナは欠伸をしながら見送った。自分の悪い癖だ。昨晩は、好きな本が届いたのが嬉しくてついつい徹夜して読みふけってしまったのである。明日休みだからって浮かれすぎだろ、と珈琲を持ってくるように命じたロランにも呆れられたほどだ。実際、今日の午前中の訓練は結構的を外してしまっていた。両親が出払っていなければお叱りを受けていたかもしれない。本に夢中になって徹夜してしまうのは、セレナとしては珍しいことでもなんでもないのだった。 ――本当に来るかしら、怪盗ルナティックは。  窓の外を見て、今夜は本を開くこともなく布団にもぐる。 ――今夜のわたくしは、良い子でお休みしますから。……攫えるのでしたらどうぞ、お好きなように。
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