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「で、結局ルナティックは来なかった、と」
「そうそう。やっぱり、うちの屋敷の警備に怖気づいたんじゃないかって」
「うーん、王宮に侵入できるほどの実力を持った怪盗が、そう簡単に退くものかなあ」
「というか、そもそも予告状が偽物だったんじゃないの?今までお金とか宝石ばっかり盗んでいた人が、いきなりお嬢様を誘拐するだなんて」
「それもそうか。うっかり今夜来るって可能性はある?」
「勘弁してよ、あの警備を二晩連続なんてごめんだわ」
「お前達、何をサボってるんだ!もう夜だぞ、さっさと掃除を終わらせろ!」
「す、すみませんチャーチル様!」
ばたばたばたばた。好き勝手にお喋りしていたメイド達が廊下を走っていくのを、ロランは呆れた眼で見つめた。やはり、メイド達にとってルナティックは憧れの的らしい。仮面で顔も見えないのに、勝手に天下絶世の美青年ということにされてしまっているルナティックもなんというか気の毒な話である。これでいつか捕まって仮面が割れる時が来たら、多くのファンをがっかりさせることになったりしないだろうか。
大抵、こういう話で本当に中身が美形であったことなどほとんどない。まあ逆に、ものすごい不細工というのもレアケースかもしれないが。
――なんか、今夜は眠れる気がしないな。本でも読もうかな。
自分の今日の仕事は終わっている。さっさと部屋に戻ろうと、自室のノブを回した。この屋敷は広い。ロランは人数の都合もあり、特別に一人部屋を与えられているのだった。
そして、ドアを少し開けたところで違和感に気づくのである。――中から、風が吹きこんでくるのだ。
「え」
慌てて入室したところで、ロランは目を見開いた。部屋の窓が、全開になっている。そして――その窓に枠に腰掛けている――戦闘訓練の時に着るジャケットにパンツ姿のセレナが。
「意気地なし」
セレナはロランを真っ直ぐ見つめて、はっきりと言ったのだった。
「予告状。送ったのは貴方でしょう、ロラン」
「!?な、何言ってんだ、俺はルナティックじゃ……」
「貴方が本物の怪盗ルナティックかどうかは知らないわ。でも、少なくともあの予告状を置いたのは貴方以外にはありえない。……だって一昨日の夜、わたくしはずっと本を読んで徹夜していたのよ?不審者が部屋に入ってきて気づかないはずがないわ。ベッドに入る前に枕を確認しているから、予告状が入れられたのはわたくしが起きている夜中しかあり得ない。……そんなチャンスがあったのは、夜、珈琲を持って私の部屋を訪れた貴方しかなくてよ」
それに、と彼女は眼を細める。
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