少年と石

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***  三ヶ月後── 「冬樹くーん、点滴一旦外すよ。後身体拭こうか」 「ん……」  ゆっくりと目を開けた。看護師さんの手を借りながら重い身体を少し起こす。点滴を一旦外してもらって暖かいタオルで身体を軽く拭いた。  ほんの少ししか動いてないのに酷くだるい。再び点滴を付けられる。瞼を下ろしかけると、「ごめんね。ちょっといいかな?」と声がした。声の主は担当医の先生と新しい先生だった。新しい先生の名は西尾先生と言うらしい。研修医だとも言っていた。先生だけど、見習いらしい。  少し気弱な先生だが優しいし手際もいい。  血圧を図る準備をしながら、先生は図鑑が目に入ったのだろう。こう訊ねてきた。 「冬樹くんは宇宙が好きなのかな?」 「うん。いつか……行きたい……」  無理かもしれないけど。そう心の中で呟いた。あの時の石はギリギリ視界に入るところに置いてある。僕に希望を与えてくれた石はそっと僕を見守ってくれている。 「冬樹くんならいつか行けるよ」  先生は次に聴診器を取り出した。  丁寧に診察をする先生を見ながらふと思った。  僕はもうすぐ死んでしまう。お母さんや先生に言われたわけではないが、本能がそう告げていた。  ある意味あの星にはなれるけれど……それは僕の願いと違う。  この石……星は……生きる希望を与えてくれた。僕がこの世にいられなくなっても、この星は誰かに夢や希望を与えてくれるだろう。  だから、これは……西尾先生に最期渡そう。  視線を感じたのか「ん?」と西尾先生が顔を上げた。 「どうしたのかな?」 「ううん、別に」  そっと頬を緩ませた。  これは後ろ向きな考えではない。生きる希望を失ったわけではない。諦めては無い。  『もっと先の未来』を考えただけ。  小さなこの星にたくさんの未来や希望を託して……  
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