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少年と石
この季節は気持ちがいい。僕はそんなことを考えながら病院の中庭を散歩した。ベンチを振り返ると看護師さんが手を振ってきた。
一人でお散歩に行きたい、と頼んだがそれは却下されてしまった。妥協案として看護師さんが目のつくところで一人で歩く、ということだった。
僕は身体のどこかが悪いらしい。どことは言われいていないが、ある日学校の健康診断で呼び出され、流されるがまま検査しそのまま入院した。
毎日のように痛い思いをしているが、珍しく今日は体調がいい。
あぁ、早く退院したい。
僕の夢は宇宙に行くことだ。病院にこもっていたら宇宙になんていけない。この真っ白な檻から早く解放されたい。そして、自由や希望を彷彿とさせる宇宙に行きたい。
なんて思いながら空を見上げた。まだ明るいこの時間は星が見えない。見えないけれど、星はある。
僕は宇宙へ向かって手を伸ばした。星をつかむように。手が届きますように。
と、その瞬間──コロンと近くでなにかが転がった。
「ん……?」
足元に手の中にすっぽり入りそうな石が転がっていた。灰色で少し重い程度の普通の石だ。
でも、もしかして……
「星?」
じっくりと石を眺める。少しゴツゴツしているが触るとそこまで手触りは悪くない。
直感的に僕はこう思った。
「星だ……」
ぎゅっと星を握った瞬間、看護師さんが「冬樹くん、そろそろ帰ろうか」と声をかけてきた。
もう少し外にいたい気持ちをぐっと堪え、うん、と頷いてポケットに星を入れた。
「リフレッシュできたかな?」
「うん」
看護師さんがなにか話しかけてくれたが、まるで頭に入らない。ポケットに手を入れると星の感触がした。
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