4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
医師と石(2)
──三十年後。
「西尾先生、この石なあに?」
診察の最後、女の子がデスクに置いてある石を指した。灰色の一件なんの変哲もない石に見えるだろう。
私はその石を手のひらに乗せた。
「これ? これはね、宇宙の石……星だよ」
「星?」
きょとんとした面持ちで彼女は首を傾げた。
「うん。みんなに希望を与えてくれるお星様」
まだ医師として未熟だった頃、初めて担当した患児の冬樹くんが最期にくれた希望の石。彼の想いを引き継ぐ石は常にデスクに置いてある。
冬樹くんは私に石をくれた三日後、星になった。彼はもうここにはいないが、彼の想いはここに生き続けている。
女の子の診察が終わり、私は星の石を白衣のポケットに入れて外へでた。冬特有の冷たい空気が身体を刺しブルリと身体を震わせた。
綺麗な満月と星が透明な夜空で輝いている。
私は星の石を月に向かって掲げた。
冬樹くんが亡くなって三十年。随分時間は経ったが、この石は生きている。患児だけでなく医師の私にも希望を与えてくれる。
冬樹くん、ありがとう。
星の石がきらりと輝いた。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!