医師と石(2)

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医師と石(2)

──三十年後。 「西尾先生、この石なあに?」  診察の最後、女の子がデスクに置いてある石を指した。灰色の一件なんの変哲もない石に見えるだろう。  私はその石を手のひらに乗せた。 「これ? これはね、宇宙の石……星だよ」 「星?」  きょとんとした面持ちで彼女は首を傾げた。 「うん。みんなに希望を与えてくれるお星様」  まだ医師として未熟だった頃、初めて担当した患児の冬樹くんが最期にくれた希望の石。彼の想いを引き継ぐ石は常にデスクに置いてある。  冬樹くんは私に石をくれた三日後、星になった。彼はもうここにはいないが、彼の想いはここに生き続けている。  女の子の診察が終わり、私は星の石を白衣のポケットに入れて外へでた。冬特有の冷たい空気が身体を刺しブルリと身体を震わせた。  綺麗な満月と星が透明な夜空で輝いている。  私は星の石を月に向かって掲げた。  冬樹くんが亡くなって三十年。随分時間は経ったが、この石は生きている。患児だけでなく医師の私にも希望を与えてくれる。  冬樹くん、ありがとう。  星の石がきらりと輝いた。  〈了〉
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