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医師と石
冬の夜風がカーテンを揺らした。上司は険しい顔でモニターを睨んでいる。
ピッピッピッ……モニターの音は不規則で、少年の容態を示していた。研修医として初めて関わった患児の命の蝋燭は今にも吹き消されそうである。もって、二日か三日。今日という可能性もある。上司は目の下に隈を作りながらぼそりとつぶやいていた。
彼の両親は涙を流しながら息子の身体を撫でていた。
なにもすることが出来ない。できることはやったはずだ。でも、彼は……やりきれなさに目を伏せた。
「ねぇ、西尾先生」
「うん?」
掠れた声幼い声が耳をくすぐった。しゃがみ込んで口元に耳を近づける。
彼は苦しそうに酸素マスクの下で小さく声をかけてきた。
「この石、あげる」
「石?」
患児は細い手でなんの変哲もない石を私に手渡してきた。成人男性の手ですっぽりと覆える灰色の石。これは一体……?
「これはね……」
彼はポツリとこの石の正体を話し出した──
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