プロの流儀

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――翌々日の深夜。 予想通り閑静な住宅街は尚もひっそりとしている。 昨日調べておいた侵入経路を元に、俺は指定された家の庭先まで来ていた。 改めて近くで見ると、街灯に照らされた築三十年近いであろう外観がどこか物悲しい。 気に留めず、鉄則通り手袋をして裏口の扉に手を掛ける。 カチャッ 扉は開いていた。 ピッキングは十八番なんですがね、と得意げな表情をする。 都会でも、老人の一人暮らしの家で鍵の掛け忘れはそんなに珍しくない。軽い認知症など患っていれば尚更だ。あの老人の言っていた記憶障害なども注意力に影響するのだろうか? 一応、警戒はしながら家の中に入ると、じんわりと香ばしい香りが漂ってきた。 人と共に長い時間を過ごして染みついた生活臭だ。人間でいう所の加齢臭。割と嫌いではない。 音を立てないよう靴をサイドバッグに入れ、ペンライトをつけてみる。 「……」 靴箱の上に置かれた木彫りの熊と目が合う。どこか懐かしい。 間取りを確認する為、俺は息を殺し床が軋まないよう注意深く進んだ。 そして、通路の角を曲がった先、木製の枠にガラスが嵌められたスライド式扉の前で足を止める。 大抵、この手の扉の向こうは和室で老人が寝ている可能性が高い。 ペンライトに手を当て光を緩めると、音をたてない様その扉をゆっくりと開けた。 案の定、中は和室だ。だが、誰もいないようで一息つく。 続けて、部屋に入り辺りを確認した。 まず、そこで目に入ったのは大きな古時計で、すぐ横は背丈程も無い棚の上に並ぶこけし達。何故か、心にノスタルジックな風が吹く。 更に、奥の凹んだスペースには高そうな壺が置いてあり、その背後には掛け軸が掛けてある。 諸行無常の文字に訝しむ俺。婆さんにしては、少々渋い。 その他、小さな置物等もあったが特に目ぼしい物は無い。ここはパスだ。 どこか無意識に違和感を感じながら部屋を出ると、和室の前には不釣り合いなモナ・リザの絵画がこちらに向かって微笑んでいることに気付く。 どうやら、ここに住む婆さんは芸術的な作品を好む傾向にあるらしい。鍵の保管場所に骨董品を選ぶのも頷ける。ただ、センスに疑問の余地は残るが……。 とりあえず先に見える階段を無視し、俺はリビングや洋室の方へと回った。 まずは、一階に人がいない事を確認する。 注意を怠らないまま、それらの部屋で辺りを手際よく物色していると、ある事にふと気付いた。 ここにある骨董品の殆どが……売っていた物じゃないな……。
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