プロの流儀

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「なんだ……これ……」 何もない世界が何かを語っている……様に感じた。 俺はスピリチュアルな世界など信じていない。ましてや、証明するなど不可能だろう……。 目の前には眠れる老婆が一人。部屋の隅には、収納ケースの上に依頼品であろう品が見える。 ――だが、この説明も出来ない程の圧倒的な存在感を前に何かが崩れようとしていた……。 ダメだ、これ以上ここにはいられない……。 あえて形容するなら、魂からの静かな執念と言うべきか……何に対してかは分からないが……。 俺はその木製品に付属されたガラス窓の中に鍵を確認すると、それらを抜き取り同じ場所に置いた。 普段の仕事でこんな事はしないが、鍵は依頼の対象外だと自分に言い聞かせる。 何て事は無い……実行するだけならあの爺さんが言ってた様に簡単なんだ。 鍵の入れてあった木製品を抱え、冷静さを装い部屋を出ようとした時だった……。 「……」 この場所において、俺の感覚が気のせいだなどという事は期待できないだろう……。 そう……つまり……。 心臓の鼓動が跳ね上がると共に、体が極度に緊張する。 振り向けば、取り返しがつかないかもしれない。 ……背後から見られている。 大した事の無いホラー映画で女優が迫真の戦慄を見せる時、俺達は現実に引き戻される。 理由は、客観的に見て大袈裟だからだ。 だが、人は当事者になって初めて根拠は内側にある事を知るのだろう。 そう、恐怖の原因は視覚からが全てでは無い……。 俺は体が制止するのも聞かず、ゆっくりと後ろを振り返った。 すると一瞬、脳が錯覚したかの様な感覚に陥る……。 「あ……あ……」 その皺を刻んだ肌は白く、モナ・リザの様な微笑を見せている……。 俺は思考が止まり、何が起こっているのか分からなかった。 それは半身を起き上がらせ、微動だにしない。だが、一つだけはっきりしている事がある……。 ――。 気付くと、声にならない声を上げながら俺は来た通路を走っていた。 意識が飛びそうになる中、鍵入れを抱えながらペンライトをもう片方の手から離さないよう何度もつまずきそうになる。 クソ……なんなんだ、あれは……。 ――触れてはいけなかった。 何かを超越した存在。器が違うとはこういう事を言うのだろう。 階段を転びそうになりながら駆け下り裏口へ向かっていると、忘れていた和室前のモナ・リザにライトが当たりぎょっとする。 やめろ……見ないでくれ……!
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