プロの流儀

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❝彼女と別れた後の事――。 相変わらず私の作品は人様には売れず、貯金も底を尽き途方に暮れておりました。 何もかも失った。一からやり直すくらいなら、ここで全てを終わらせた方が、と……。 そんな折、ある方と出会ったのです。 店を畳む際、その方は紳士的な口調で話しかけてきました。 骨董品の本当の価値には気付きにくいとはいえ、客には作り手の意図を見る目が全く無い。才人は常に孤独と聞きます。 など、言葉巧みに彼は、私の荒んだ心に入り込んできました。 芸術に際限はなく、才能の上では毒もまた然り。あなたにはうちで働く価値がある。 捨て駒を探していたのでしょう、それは裏社会からの勧誘でした。 絶望の他、寂しさもありました。 私は、躊躇う事無く盗み屋という毒を含んだ第二の人生を始めたのです。 そして時は数十年経ち、私もこの世界で幅が利くようになった頃、ある情報が耳に入りました。 同業者からの話です。 幼少期の子供を誘拐して洗脳し、表向きだけの児童養護施設で孤児として育てているグループがあるそうな。 そこでは職業訓練と称し、子供たちに開錠技術や薬品、危険物取扱いなど犯罪に携わる上で必要な知識を植え付け、時期が来ると別のグループが恩に着せるような形で引き抜いていくのだとか。 その別のグループというのが、我々のいる盗み屋だと言うのです。 情報を聞いた後、何となく昔の名簿に目を通していると事態は急変しました。 場合によって、我々は捨て駒として扱われる事は御存知でしょう。 それを理由に子供を含め、組員全てのDNAが管理されている事も。 そこには、私と親子関係であると証明された対象が記されていたのです。 何と因果な運命か。私はどうすべきか迷いました。 骨董品を作っている頃より、今も一つの流儀を重んじております。 それは、価値の証明、仕事の意味付けです。 犯罪業に価値や意味など無いと思われるかもしれません。 ですが、それでもそこに意味を見出そうとするのが私の流儀なのです。 一作品に過ぎませんが、私が盗めなかった物、盗めなかった彼女の心をあなたが代わりに盗めたなら、そこには意味があると思うのです。 彼女の存在を、伝えたかった真実を証明する事もまた、最後の仕事だと思いました。❞ 俺は深く溜め息をつくと、三枚目を手に取った。
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