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『わたあめオーバードライブ』はわたしたちのグループ名だ。活動四年目のローカルアイドル。地下アイドルと言い換えてもいい。
まだまだ知名度は低い。
月に二回あるライブハウスでのイベントでは、少しずつではあるけれどファンが増えてきている実感はあった。それでも、全国区のアイドルと比べれば人気は天と地の差ほどあった。
毎日のように歌とダンスの練習練習。
小さな事務所だから、一流の振付師なんて雇えない。経験のあるダンサーが考えた振り付けを来る日も来る日も覚えた。
事務所が与えてくれた寮にわたしたちは三人で暮らしている。他のメンバーは実家から通っている。
給料なんて雀の涙ほどしかないから、食費を浮かせてみんな飢えを凌いでいた。
もやしが安かったとか、十個入りの卵がひとパック百円だったとか。
それでもお金が足りないときは、コールセンターのアルバイトをして生活費の足しにしている。どれだけひもじい思いをしていても、夢を掴むためならどんな辛いことでも耐えられた。
今、一番人気のあるアイドルは? という問いに百人が百人こう答えるだろう。
『あにまる恋ん』だと。
通称『あに恋』。彼女たちはいまやバラエティにドラマに歌番組にと引っ張りだこだ。
彼女たちに憧れてアイドルになった者も多い。もれなくわたしもその一人。
彼女たちの何事にも一生懸命なところに惹かれて、わたしはアイドルを目指した。
特にキャプテンのミカさんは、いつも笑顔を絶やさなくて、常に全力で、本当にカッコいい。あんな人になりたい、とわたしはその道を志した。
でも現実はそんなに甘くはなく、数あるアイドルの中から人気が出るグループなんてほんのひと握り、いやひとつまみだけ。
アイドル戦国時代。全国には三千組を超えるアイドルグループがいると言われている。
そのほとんどがひっそりと幕を閉じるのだ。アイドルには若さが必要。何十年もやれる訳じゃないから、二十歳を超えるとかなり焦る。
わたしを含めて、二十歳を過ぎているのは二人だけ。わたしとキャプテン。
お互いに二十三歳、今年売れなきゃかなりヤバい。
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