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舞台裏は明かりが消えて、小さな光だけが点在している。
もうさっきから心音は高鳴り続けていた。
伊依理がわたしの肩を掴んでリラックスさせてくれる。
「大丈夫大丈夫」
その言葉が本当に救いになる。
舞台裏に設置されたモニターに映る前の組の楽曲が終わりに差しかかる。
ステージの光が段々と薄くなった。
「ありがとうございました」
彼女たちのその声は、わたしたちの合図だった。手を振りながら袖にはけていく彼女たち。わたしの横を通るとき、一人の女の子が両手で顔を覆い泣き出してしまう。
それは見慣れた光景だった。
うまくいかなかった、それがどれだけ自分を責める材料になるのか。
声をかけるわけでもなく、わたしはその少女から視線を外す。
人の心配をしている余裕はない。
人生が掛かっている。
「リナ……」
カレンがその女の子に寄り添うように肩に手を当てて慰めていた。彼女とは中学の同級生なんだと先程話していた。
しかし、その女の子はカレンの手を振り払って泣きながら帰っていく。
「では、わたあめオーバードライブさん、お願いします」
スタッフに誘導されて、ステージ横まで歩みを進める。もうやるしかない。
伊依理がカレンに「気にしなくていいよ」と声をかけていて、舞台直前までメンバーのことを気遣っていた。
ステージが暗転し、大型モニターに煽りVTRが出される。ミラーボールの光が縦横無尽に舞台上を駆け巡り、焦燥感を掻き立てる四つ打ちのダンスミュージックが響いていた。
先頭に立つ伊依理がわたしたちの方を振り返り、笑顔のままひとつ頷いた。
一歩を踏み出す。
夢の舞台への第一歩だ。
わたしたちならできる。
何があっても、このメンバーなら大丈夫。
観客の声援が本当に力になった。
さあ、行こう。夢を掴む為に。
わたしたちは、光の射す方へ歩みを進めた。
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