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翌朝、目が覚めたとき、それが夢の中なのか、それとも現実に起きていることなのか、はっきりとはわからなかった。
鳴り止まないスマホ。
その指示に従うように、わたしはリンク先へ指を動かす。
そこに写っていたのは、一枚のプリクラ写真。中学生ぐらいの男の子と女の子が二人。
彼氏と思われるその男の子の目線には黒い線が引かれているが、女の子の顔ははっきりと写っている。
彼氏が彼女に抱きついて、頬にキスをしている写真。
普通のカップルならなんてことない写真だけど、それがアイドルなら話は変わる。
写っていたのは、間違いなくカレンだった。
部屋の扉が開けられて、寝起きの沙耶香が顔色を変えて入ってきた。その後には結実もやって来て、声を揃えた。
「ヤバいってこれ」
彼女たちの言葉を聞く前にもう何がヤバいのかはわかりきっていた。
グループのSNSは荒れ、批判や中傷コメントで溢れ返っている。
マネージャーから連絡があり、夕方にみんなで集まることになった。
最悪のタイミング。なんで、あとちょっとなのに。もう少しで本戦に出られるってときに。
怒りとか悲しみとか夢とか絶望とか、色んな感情が湧き起こってもう訳がわからなくなった。
夕方、事務所の会議室に行くと、カレンが目を真っ赤にして俯いていた。
「どういうこと? ちゃんと説明して」
わたしは彼女のことを睨みつけていたに違いない。それは沙耶香と結実も同じだった。
「とりあえずさ、伊依理が来てからにしよう」
社長は冷静さを保ってはいたが、顔は憔悴しきっていた。
それからしばらく経って、伊依理が入ってくる。
その顔つきは、無理矢理怒りを我慢していて、感情が爆発しそうになるのを辛うじて抑えつけているように見えた。
大きく深呼吸をしながら椅子に座る。
「ちゃんと説明して」
矢のように鋭いその低い声はカレンに突き刺さる。顔を歪めて涙を流す彼女。
「……本当にすいません。違うんです」
声を詰まらせながら語ったカレンの言葉。
あの写真はアイドルになる前の中学生の頃のもので、当時仲が良かったグループ何人かで遊んだときに男の子と一緒に二人で撮ったものらしい。
ふざけ合ってあんな風に撮影してしまったようで、付き合ってはいなかったんです、信じてください、とカレンは何度も弁解していた。
「……もちろん、今も彼氏なんていません」
その言葉が事実かどうか信用なんてできないと思ったが、彼女のことを信じる以外にわたしたちに出来ることはなかった。
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