ワタシノミカタ

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 それから十五分ほどが経った頃、外に出ていた伊依理が事務所に入って来て、わたしたちを会議室に呼んだ。  泣き腫らしたカレンは少しだけ落ち着いているように見える。  カレンの隣に座った伊依理の目は真っ赤に染まっている。それでも、彼女は笑った。 「ここでさ、くよくよしてても仕方ないよ。動画撮ろう。謝罪動画。まあ、謝ることはないのかもしれないけど、ファンの人たちに心配掛けてる訳だし。ちゃんと説明してさ、わかってもらおうよ。だからさ、辞めるなんて言わないでよ」  キャプテンはどんなことがあってもキャプテンだった。本当に頼り甲斐がある。 「カレン、話せる? 無理なら、私が代わりに喋ってあげるから」 「……大丈夫です。私、自分で話したいです。伊依理さん、本当にごめんなさい」 「いいからいいから、さ、早く撮っちゃおう。こういうのは一秒でも早くアップした方がいいって」  そうして謝罪動画はアップされ、ファンの間で広まっていった。  その反応は様々で、擁護してくれる人もいる中で、批判するコメントも多かった。  それは得票数にも影響され、『わたドラ』はたった一日で二位から五位に順位を下げていた。  サイトで表示される折れ線グラフは、株価が暴落するみたいに急降下している。 『わたドラ、落ちてきたな』 『もうダメだろあんなの出たら』 『推してたのになぁ』  そんな言葉がネット上で並び、わたしたちはいい意味でも悪い意味でも注目されることとなった。  日を追うごとに順位は下がり、写真が流出してからたった三日で『わたドラ』は十位まで順位を落としている。  それでも伊依理だけは毎日笑顔を絶やさずに生配信を続けていて、その姿は憐れとさえ思ってしまう。  もうわたしにはそんな気力はない。  ベッドに寝転がりながら、夢の終わりを感じていた。  結局、これがわたしの限界なんだ。  トップアイドルになれるのは、ほんのひと握りの人たちだけ。わたしじゃなかった、それだけだ。  アイドルはここでおしまいかな。もうダメだよね。  そう思ったとき、スマホが揺れた。 『加入前のことなんだからさ、別によくない? ってわたしは思っちゃうけど。「ワタシノミカタ」いい曲だからみんな聴いて~』  それは、『あに恋』のミカさんのつぶやきだった。百万人のフォロワーがいるミカさんの言葉。  それから状況は一変した。
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