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出番だと告げられて、わたしたちは控え室を出た。廊下を進む足取りが重く、歩みを進める度に恐怖感が増していくのがわかった。
奥歯がカタカタと揺れ、手足が小刻みに震える。心臓の高鳴りは相変わらずで、舞台へ向かうにつれてその音量は大きくなっていく。
オールスタンディングで二千人を超す大きなキャパのライブハウス。
すでに立ったことのあるステージだった。
嫌だ、帰りたい、そう何度思ったことか。
おととしも、去年もダメだった。
今年はいけるはず、十分前まではそう思っていたのに、いざ本番が近づいてくると自信は不安に変わっていた。
前を歩くキャプテンの伊依理は堂々としている。さすがだなと思う。
彼女は誰よりもこのメンバーのことを想っている。だからこそ、自分がしっかりしなきゃいけないと伊依理はいつも言っていた。
ステージでは他のアイドルが楽曲を披露している。それが終われば、いよいよ自分たちの出番だ。
お揃いの衣装を着た五人。ようやくここまで来れたんだ。あとはやるだけだ。
舞台袖へと続く扉の前までやって来ると、また別の緊張感が高まってきた。息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。
えっと、次はどっちだっけ? と呼吸をすることさえもわからなくなってしまう。
「紗織、大丈夫?」
伊依理がすかさず声をかけてくれた。
わたしはその声に安堵して、自然に呼吸の仕方を思い出した。
「う、うん。大丈夫」
「いつも通りやればいけるよ。大丈夫」
伊依理の言葉は優しくて、メンバー全員が落ち着きを取り戻したとさえ思えた。
沙耶香と結実はお互いに背中を叩き合っている。最年少で高校生のカレンは何度も振りを確認している。
緊張をほぐそうと皆必死だった。
「集まろう」
伊依理の声でわたしたち五人は輪をつくる。それぞれが右手を差し出した。
「みんな、ここまで来たらさ、あとはやるだけ。ここからが始まりなんだから。人生変えよう。私たちは、ここから人生が大きく変わるはず。大丈夫、必ずうまくいく。絶対大丈夫だから。いくよ? さあ、気合い入れて」
「いきまっしょう!」
いつもこの円陣で気合が入る。
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