木鼠は誰が為に

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 明生は拓真に顔を近づけると、睨みつけてきた。  拓真は、明生の視線に射抜かれ、動けなくなった。  蛇に睨まれた蛙。  そんな言葉が脳裏に浮かぶ。  明生は、左手一本で拓真を持ち上げると、壁に押し付ける様に叩きつけた。  鈍痛が背中に走る。  意識を失いそうになるが、明生はそれを許さなかった。  明生の右膝が拓真の腹に突き刺さり、拓真は胃液を吐き出す。拓真は床に投げ捨てられ、うつ伏せになった。  そこに明生は蹴りを放つ。  拓真は顔面に蹴りが炸裂するのを目撃した。  苦痛に唸りを上げる。  誰が?  それは、拓真が。  ではなく、明生の方だ。  拓真がガードした手には、スタンナイフが握られていた。  明生の蹴りかかる瞬間を狙って、取り出したのだ。明生はあろうことかスタンナイフに蹴りを入れてしまっていた。  明生の甲からはナイフが生え、怒りに満ちた表情を浮かべている。  拓真をスタンナイフの電圧を最大値に設定し150万Vの超高電圧を明生に向かって放つ。  目も眩むばかりの光と音を立てて、電流が明生に流れ込み全身を痙攣させながら倒れる。  そして、拓真は立ち上がり、グロック27を拾い、その場から逃げ出す。  背後で明生が呻いていた。 「見たぞ、お前の顔……」  拓真は明生を見下ろし、バンダナを外す。素顔を見せたのは、自分も明生と同じ裏社会の住人だから。 「そうかい。俺は世間様に顔向けできるような事はしていねえが、あんたはどうだい」  拓真の言葉に、明生は歯ぎしりする。  明生はヤクザの中でも、裏社会でも有名なヒットマンだ。  だが、表に出れば、ただの犯罪者にすぎない。そんな奴が警察に駆け込むことなどできはしないのだ。
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