150人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
一応顔の前で両手を合わせて固く目を閉じるも、耳に入ってきたのはやはり呆れたようなため息だった。
「……で、ついつい中身を見ちゃって、俺がママ活なんかして儲けてるだなんて勝手に思い込んで暴走しちゃったわけだぁ?」
ずばり図星を突かれて、何も言い返せない。
これでは怒らせても仕方ない……そう覚悟を決めた綾乃だったが、意外にも葵が怒るどころか声を出して笑い出したことに開いた目を丸くするのだった。
「……怒らないの?」
「怒るもなにも、お前らしくて笑っちゃった! あれはさ、俺が学生の頃に親から仕送られてずっと使わずにいた金と……就職してからのボーナスなんかが積もり積もっただけの金なんだ」
「なんだ……そうだったのぉ?」
「……まぁ、それももうほとんどアテにできなくなりそうだけどな」
「なんで?」
「そりゃあ、俺がその指輪についた宝石に妥協できなかったのと、あとはこの先の仕事と……お前と一緒に幸せになるための軍資金ってとこかな」
「あ、葵っ……!」
1000万円の謎が解けた安堵と、自分との将来をしっかり考えてくれていることを改めて実感した綾乃は、思わずそのまま抱きつきたい衝動に駆られた。
そうとは知らず、葵は……
「まぁ大丈夫だって、『ウエダさん』も『シモダさん』も『ナカダさん』も、みんな俺のためならいくらでも色つけて報酬支払うって約束してくれてるからさ! 食事デート1回につき2万円、買い物デート1回につき5万円、まぁ絶対ないけど一夜を共にしたら多分すっごい色つけてくれること間違いな——」
意気揚々と振り返ると、静寂の中……
目に光を失った綾乃が、ユラリとそこに佇んでいた。
「ねぇ……それ……ママ活と一体どこが違うのか……説明、してくれない……?」
あまりの気迫に、恐れ慄く葵。
「い、今のはもちろん冗談でっ……! ちゃんと仕事の価値で稼いでみせますからっ……お、落ち着けよ、なっ?!」
「ふんっ! この悪徳業者! 訴えられちゃっても知らないからっ!」
言い訳に苦しむ彼のそばで、綾乃は密かに左手薬指に光る指輪をそっと指で撫でるのでした——。
〜終〜
最初のコメントを投稿しよう!