第1話 メシマズ女の憂鬱

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「な、なにっ……これ」  思わずその見た目に戦慄する葵に、綾乃は自信満々に答えてみせる。 「何って、ビーフシチューに決まってるじゃないのぉっ! けっこう自信あるのよねー私っ!」 「へーえ、実は俺もちょっと興味あったんだ。綾乃の手料理ってヤツになっ」  興味津々の葵は手に取ったスプーンでスープの中の牛肉を掬いあげ……    人生最大ともいえる選択ミスを犯すのだ。 「んじゃ、(見た目はともかく)いただきまーすっ!!」  ……ぱくっ。 「………。」  綾乃がウキウキしながらその顔を覗き込んだ瞬間……    葵の指の間をすり抜けた銀のスプーンが皿の中へとスローモーションで落ちていき、カチャン……、と音を立てた。  ——そして……綾乃は見た。  そう、無言のまま微動だにせず、まるでホラー漫画の一コマのように白目を剥き、顔面蒼白となった葵の顔を——。 「葵……どうした……の……?」  ちょっと不安そうな笑顔で様子を伺う綾乃の顔に、化け物を見たような目を向ける葵。そして、グラスに入った麦茶を一気に飲み干したかと思うと、止めていた息を吐き出すかのように言った。 「な、なぁ……これってほんとにビーフシチュー……なんだよ……な?」 「えっ? そうだけど、なんで?」 「なんか……俺が知ってるのとは全然違う気が……っ」 「ああ、それなら私がちょっとアレンジしたからじゃないかな?」 「アレンジ……?」  葵の中で、一抹の不安がよぎる。
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