167人が本棚に入れています
本棚に追加
「な、なにっ……これ」
思わずその見た目に戦慄する葵に、綾乃は自信満々に答えてみせる。
「何って、ビーフシチューに決まってるじゃないのぉっ! けっこう自信あるのよねー私っ!」
「へーえ、実は俺もちょっと興味あったんだ。綾乃の手料理ってヤツになっ」
興味津々の葵は手に取ったスプーンでスープの中の牛肉を掬いあげ……
人生最大ともいえる選択ミスを犯すのだ。
「んじゃ、(見た目はともかく)いただきまーすっ!!」
……ぱくっ。
「………。」
綾乃がウキウキしながらその顔を覗き込んだ瞬間……
葵の指の間をすり抜けた銀のスプーンが皿の中へとスローモーションで落ちていき、カチャン……、と音を立てた。
——そして……綾乃は見た。
そう、無言のまま微動だにせず、まるでホラー漫画の一コマのように白目を剥き、顔面蒼白となった葵の顔を——。
「葵……どうした……の……?」
ちょっと不安そうな笑顔で様子を伺う綾乃の顔に、化け物を見たような目を向ける葵。そして、グラスに入った麦茶を一気に飲み干したかと思うと、止めていた息を吐き出すかのように言った。
「な、なぁ……これってほんとにビーフシチュー……なんだよ……な?」
「えっ? そうだけど、なんで?」
「なんか……俺が知ってるのとは全然違う気が……っ」
「ああ、それなら私がちょっとアレンジしたからじゃないかな?」
「アレンジ……?」
葵の中で、一抹の不安がよぎる。
最初のコメントを投稿しよう!