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『コイツは一体、何をどうアレンジしてこんな味を作りだしたんだ……』という、漠然とした不安と恐怖が。
そして、ある考えが頭をよぎる。
「なぁ、ちょっと……レシピ教えてくれない?」
唐突な質問に少し首をひねると、綾乃は思い出しながら順を追って説明し始めた。
「レシピ? えっと……鍋に水を入れて沸騰したら市販のルーと牛肉と野菜を全部入れてぇ……」
「………。」
「……で、すっごくお肉の匂いがキツかったから、生姜とパイナップル缶を入れてみたの!」
不安はすぐに、確実なものとなってきた。
「生姜と……パイナップル……」
いよいよ重い頭を抱え始めた葵のことを無視して、どんどん突き進む綾乃。
「うん、だって煮魚なんかも魚臭さを消すために生姜を入れるでしょ? パイナップルは……ほらっ、どっかのお店のハンバーグにも乗ってるし、酢豚にも入ってたりするからビーフシチューにも合うんじゃないかと思って!」
「………。」
「だから、生姜も丸々1個入れてパイナップルも1缶全部入れたんだけど……なんか……変……?」
説明しながら、何の反応も見せずに冷ややかに見つめる葵の顔を見ているうちにだんだん自信がなくなっていく綾乃。
「いや……別に……」
対して、あえて本当のことは言わず、この世のものとは思えないような変な味に仕上がったビーフシチュー(?)に視線を落とす葵。
茶色く濁ったスープの中には、野菜の他にほとんど溶けてバラバラになったパイナップルの果肉の破片が散りばめられており、一気に強火でボコボコ煮込まれたのが明白だった。そして……
魂が抜けたかのようにそれを見つめるだけで一向に食べ進めようとしない葵の様子についに痺れを切らした綾乃が、横からスプーンを奪い取った。
「な、なによっ? 毒でも入ってるって言うの?! そんなの入ってないって私が証明すればいいんでしょっ?!」
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