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二人分のバッグを片手に、綾乃は真世を引っ張ってレストランの外へと飛び出した。
こんなに早歩きをしたのは初めてだ。
「ちょっと綾乃っ、一体何があったの?! あのイケメン彼氏……やっぱママ活してたってこと?!」
大通りに出てしばらく歩き、やがて息を落ち着かせながら綾乃は自分でも整理しきれない想いをぶちまく。
「わかんない……でも、私に嘘ばっかついてなんの説明もないんだもん、もう許せないよ……!!」
「綾乃……っ」
ワナワナと震える拳の矛先をどこに向けていいのかわからない。もはや立ち尽くすしかない中、背後から夜の都会の喧騒より強く耳を劈いたのは、今は憎っくき男の声。
「綾乃っ!!」
思わず逃げるように走り出すが、さらに走って後を追ってきた葵にパシッと腕を掴まれた。
「あっ……離してよっ!! 私に隠れてママ活なんかしてたくせに!!」
振り払おうとするその手は、絶対に逃がせまいとして一層力が込められる。
「はぁ?! ママ活……?! そんなんじゃないから、勘違いすんじゃねぇよっ!」
——改めて見る、腕を掴んで離さない葵のその姿。
濃いネイビーブルーのスーツは綾乃が想像した以上に、彼の魅力を最大限まで引き出していた。
髪から果ては足のつま先まで余すことなく艶麗でエレガントなその姿に、いつもならつい見惚れてしまうところだが……。
「……なによ、そんなにオシャレまでしちゃって。私以外の女の人と二人で会うのに、どうしてそんなカッコしてるのよっ!!」
「こ、これはっ……たまたまだよ……っ」
修羅場と化した二人の間で慌てふためく真世を置き去りに、綾乃の激昂はますます止まらない。
「たまたまなんて、また嘘なんでしょ!! あのウエダさんって人、あんたのこと好きみたいだし……今夜だってこのまま二人でどこかに行くつもりだったんじゃっ——」
全部言い終わらないうちに掴んだままの腕を引っ張られ、強引なキスでその口を塞がれた。
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