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——葵とついにやり合った……というよりも、ついに綾乃がキレたその3日後。
この日も綾乃は休日だったが葵はいつも通り出勤だったため、恒例となっていたデートの誘いはおあずけだった。
……というより何よりも、自分から「もう会ってあげない」と啖呵を切った以上、そもそも誘えるわけなどないのだが。
それでも……
夜、お風呂から上がった綾乃はパンツも履かずにバスタオル1枚のままリビングへ入り、一目散にスマホを手に取った。そしてその通知画面を確認するや否や、深いため息をつく。
もうあの一件以来、ずっとこの調子だ。
「なによ、あれから丸3日も会社でもすれ違いばっかで連絡も無しだなんてっ。葵のバカ……」
そう呟いた後、キッチンの小さなカウンターの上にスマホを置き、冷蔵庫を開けて牛乳パックを手に取ろうとするが……
「……ええいっ、一人で憂さ晴らしに限る!」
結局は缶ビールを取り出し、プシュッと飲み口を開けた。そして、キンキンに冷えた缶の注ぎ口から白い泡が吹き出しそうになったところに一気に吸い付く。
「んぐっんぐっんぐっ……プッハァーッ! やっぱビールしか勝たん!」
大好きなビールの苦味が、なぜかいつもよりも強く感じた。
「ビールも美味しくないなんて、そろそろ私もキツくなってきたかな……」
再びスマホを手に取り、操作し始めた。
とりあえず、誰か気の許せる相手と話して気を紛らわせたい……そんな想いで。
「咲子、今日は朝から決算で経理部は鬼の忙しさだって嘆いてたっけ。まだ残業中かもな……」
不味いビールを口にしながら、咲子に電話をかけてみた。
「……もしもし綾乃? どしたの?」
わりとすぐに出てくれた親友の声で、綾乃は少し気が和らいだ。
「あ、咲子? 残業じゃないみたいでよかった。なんか咲子の声聞きたくなっちゃってさ。あ……でも、今日はさすがにもう疲れてる……かな?」
一応気遣ってみるが、意外にも元気そうな声が返ってくる。
「……いや? それが案外早めに片付いて夜7時には退社できたんだー。そういうあんたこそ、今日は休みでも疲れてるんじゃないのー?」
「え? 疲れるどころか元気すぎて困ってるよ! 午前中は寝てたし、午後もゴロゴロしてたしっ、夜もテキトーにご飯作って食べて、お風呂も入って今は一人で晩酌中っ……だもんね!」
なんだかんだで飲み干したビールの缶をクシャッと潰したその時だった。
「あれ、そうなの? あんたのことだから、桐矢くんの看病ついでにイチャつきすぎて疲れてる頃だと思ってたんだけどなぁ」
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