最終話 愛の行方は、前途多難なようです。

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 今一度、脳内で数日前の記憶を呼び戻す。  高級レストランで葵と見つめ合っていた、深紅のフォーマルドレスを着た細身の妖艶な美女、ウエダさん。  確かに、年齢も若すぎないふうに見えたし、何より全身から滲み出るオーラが「成功者」のそれだった。  さらに葵は続ける。 「『PONEYS(ポニーズ)』の服の1枚や2枚ぐらい、お前も持ってるんじゃないの? 」  マグカップにお湯を注ぐ後ろ姿をしばらく見つめた後、綾乃はハッとした。 「それはもちろんだけど、まさかあの人がその社長なの?!」  『PONEYS(ポニーズ)』といえば、10代から60代までの幅広い年齢層から人気を得ている有名なアパレルショップだ。  馬をモチーフにしたロゴが特徴的で、可愛くて高品質なうえ価格もリーズナブルなため、綾乃も掘り出し物があれば確実に手に入れるほどには愛用している。  そして葵は、これまでの経緯について話してくれた。  知り合いのツテで『PONEYS(ポニーズ)』の社長であるウエダさんにデザイナーとして紹介してもらったこと。  ポスターなどの紙媒体であるグラフィックデザインと、サイトを構築するための専門知識が必要なWEBデザインの両方を難なくこなせるうえにディレクターまで務めている葵の能力はチート級と言っても過言ではなく、その点を高く評価されたこと。  そして何度も直接顔を合わせて自己PRやデザインのテスト提案を繰り返し、やっと気に入ってもらえて新しいブランドロゴのデザインを任せてもらえたこと。 「……だからもういろいろ必死だったよ、あんな上場企業のそれもブランドロゴデザインを手掛けられるなんて実績としてはもちろん、スタートラインとしては最高だし」  「スタートライン」というワードでピンと来た。 「じゃあ、個人的なクライアントって……!」 「うん、独立してフリーランスのデザイナーになったんだ。……って言っても、今勤務してる会社の方が現段階では本業だからあくまで副業として、だけどな。フリーランスの方が軌道に乗ったら、会社も辞めてこっち一本でやってくつもり」
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