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「デスクに突っ伏したまま朝を迎えることもザラだったし、そりゃあ疲れも取れなくて当然だよなー」
そう言ってあっけらかんと笑っていても、やはりいつもよりもどこか儚げに見えてしまう。
あの温泉デートの時ですら微塵もそんな変化を見せることなく、目の前で微笑んでいた彼。それだけに、突然聞かされただけですぐに実感が湧くものではなかったのだ。
「そんなの……私、全然知らなかったよ……」
「当たり前だよ、社長にしか話してないもん」
「え、なんで?」
「本当は同業種の副業するのって暗黙のルールみたいな感じでさ、あんまり良く思わない人だっているんだよな。だから、そのせいで周りが俺と一緒に仕事しにくくなるのだけは避けたかったんだ」
「……じゃあ、葵は会社の仕事も今まで通りにこなしながら、勉強もして、個人の仕事までしてたってこと……?」
「うん、会社が休みの日はもちろん、早めに切り上げた日なんかは自分の足で営業に回って1日終わったり……そうじゃない日は一日中、受けた案件の作業に没頭してた」
休日のたびにデートに誘おうとするも、ことごとく断られてばかりいた日々を思い出す。
「だから……なかなか会う時間が作れなくて、お前から誘われても毎回下手な言い訳して逃げてたんだ。ごめんな……綾乃」
もはや、謝罪なんてされる覚えなどなかった。
浮気をしていたわけでも、ママ活をしていたわけでも、ホストクラブでバイトをしていたわけでもなく、ひたすら夢に向かって走っている葵の邪魔をしていたのは自分なのかもしれないのに。
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