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「あ! な、何すんのっ?!」
「指輪をデザインするのって俺も初めてだったからさ、カタログなんか買って参考にしたりもしたんだけど……やっぱ職業柄こだわっちゃって」
手のひらに乗せた指輪を見つめて、葵は笑った。
「やっぱ俺、誰かを幸せにするために物を創ることが好きなんだ……。まぁ、そのせいで何回も作り直したりしてるうちにお前のこと、痺れ切らして怒らせちゃうとこまで来ちゃったんだけど」
まるで、待っているのを悟られたように彼の手に取られる左手首。
「バカだよな、俺って……。やっとの思いで昨日の夜だか朝だかに完成して……これでやっとお前に何もかも話して仲直りできるって思った途端に一気にフラーッときちゃって、このザマだもん」
薬指の先端をくぐって、葵が摘んだ指輪は付け根まで引っ掛かることなくすんなりと通っていった。
——決して死ぬまで忘れられそうにはない、この瞬間。
そして言葉も出ないまま見上げた場所には、今まで何度も見てきた彼の少し困ったような照れ顔があった。
「これでお前はもう予約済みっ。俺から離れたら契約違反だからなっ」
「葵……っ!」
一気に溢れ出してしまった想いが、愛情なのか感謝なのか安心なのか、反省からくる後悔なのか、わからないまま……
ただ、一直線に——
愛する人の胸の中へと飛び込んだ。
「ほんっとーに! あんたってバカ!! 私なんかのために、熱出して倒れるまで頑張っちゃうなんて……! それなのに、ごめんっ……私、何も知らずにキツく当たっちゃって!」
彼の胸元部分のトレーナーを握りしめている指につい、力が込められてしまう。
そんな綾乃とは対照的に、葵から返ってきたのは安心しきったような優しい声だった。
「でも、こうしてまた俺の所に来てくれたじゃん……それだけで、俺って満たされちゃうんだよな」
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