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見上げると、自分の涙でぼやけた彼の顔があった。そして、どちらからともなく引き寄せられたまま、唇が重なり合う。
もうこれ以上、言葉でお互いの愛を確かめ合う必要なんてなかった。今までで一番熱いキスだけが、意思疎通を図り始めたのだから。
「ん、ん……」
抜け落ちそうになってしまう全身の力。
——心地良いはずなのに、心臓の鼓動と一緒に呼吸が乱れ始める。
それが綾乃だけじゃないことは、唇が離れて目を開けた瞬間に視界に飛び込んできた彼の表情が証明していた。
「葵、顔……さっきより赤いよ? もしかしてまた熱上がってきたんじゃ……」
「いや、多分……興奮してるせいかも」
「それって……」
「決まってるだろ? お前のこと、今すぐメチャクチャにしてやりたいからだよ」
——いつもより目力も弱いくせに、その瞳には一撃で捕らえた獲物を逃す隙など……どこにもなかった。
「……あ! ちょっと待っ——」
手を引かれるままに寝室に連れて行かれ、押し倒されたベッドの上。
火がついてしまった彼の物言わぬ唇は尚もその言葉を封じ込め、時折熱い舌先同士が絡み合う。
「んふ、う……っ」
思うように息ができないのは、キスの激しさのせいだけじゃない。とっくに疼き始めていたカラダは、肌の上を滑って服の中に入ってきた彼の手に下着の上から胸を掴まれた瞬間にピクンと全身で反応する。
「……離れてた間、ずっとこうしたかったのはお前も同じだろ?」
「そ、それは……! んっ」
質問してくるくせに、答えさせる間を与えずにまたキスで黙らせる葵。胸を揉みしだくその手つきも、彼の興奮の強さを物語っていた。
このまま激しく愛されたい——。
彼のカラダの重みを感じながら、快楽に身を委ねてどこまでも堕ちてしまいたい。
全身の感覚が、そう強く願っていた。
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