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——そして。
「はい、どうぞっ! 召し上がれっ!」
ダイニングテーブルに座った葵の目の前に、綾乃は嬉々としてそれを置いた。
一見すると、一人用の小さな土鍋……だが、その蓋を開けてみた今となれば、とんだ「玉手箱」だと思わざるを得ない。
それはまるで赤ちゃんの離乳食のような、老人向けの介護食のような……とてつもなくドロドロになった「雑炊(※あくまで料理名)」。
それだけならまだマシな方だ。
なぜなら、米粒がどれかわからないほどドロドロのくせに、強火で煮込んだせいで底の方で焦げた米粒や玉子があちこちで黒ずみとなって浮かんでいるのだから。
「な、なに……これ……っ」
ますます顔色が悪くなっていく葵に向かって、綾乃は笑顔を崩すことなく説明し始める。
「何って、雑炊に決まってるじゃないのっ! ちょっと焦げちゃってチャーハンみたいになっちゃったけど、実家で私が寝込んだ時によくお母さんが作ってくれたのとソックリなのよねーっ!!」
「そ、そう……なのか。(つまりは遺伝……ってわけか)」
もはや選択の余地なく、その結果がどうなるのかも承知のうえで葵は……レンゲで「雑炊」を掬い、意を決して一口含んだ。
「……っ?!!」
——声にならない叫びを塞ぐように両手で口を覆い、今だけは味覚を封印したいという思いに駆られながら嚥下する。
「……どう? 案外イケたりとか……しない……?」
笑顔がだんだん真顔へと変わっていく綾乃を見つめてため息をつくと、葵は席を立ち上がって言った。
「……ったく、しゃーねぇなぁ。おいで、綾乃」
「えっ?」
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