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「それって……一緒に住むってこと……?!」
「うん」
——一緒に住む、つまりは同棲。
そう、今まで何度も夢見てきた葵と二人っきりの生活。それが叶えばもう離れ離れにならずに済むし、いつでも一番近くに彼を感じることができるのだ。
本当に妄想するしかなかったそんな夢が現実になるとは信じられない思いで、YESでもNOでもない答えが宙を舞う。
「でも、本当に私なんかで……いいの?」
謙遜でも遠慮でもないそんな疑問に対し、葵は手元のドロドロの雑炊が入った土鍋を見つめて小さく微笑んでみせた。
「お前は俺のことを『完璧な男』だって言ったけど……俺は完璧なんかじゃない。お前っていうエネルギー源がそばにいないと、こんなふうに疲れて潰れちゃってもすぐには起き上がれないから……」
「あ、葵っ……!」
言っているニュアンスと彼のその表情で、なんとなく察した。
——そう、「ようやく言ってもらえる時が来た」……と。
その途端に脈拍はスピードを上げ、動悸にも似た心拍数が一気に上昇していく。
「や、やっぱちゃんと言わなきゃダメなんだよなー……こういうのって」
そんなふうに濁しながら落ち着きなく右耳たぶの裏を指で触ってばかりいた彼が、ようやくその困り果てたような赤ら顔を上げた。
「今はまだ俺も独立したとこで安定してないけど……この先仕事が軌道に乗って、仕事量も収入も安定したら、さ……その……っ」
「う、うん……?」
「お、俺と……俺と、結——」
ブーッ、ブーッ、ブーッ
——突如としてバイブ音を鳴り響かせる葵のスマホによって、その先の台詞は不発弾となって埋もれてしまった。
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