最終話 愛の行方は、前途多難なようです。

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「電話だよ……葵……」  ゲンナリとした綾乃に促された葵は、頭を抱えて大きなため息を一つ。  そしてテーブルに置かれていたスマホを手に取り、席を立つと同時にコホンと一つ咳払いをしてからスマホを耳に当てた。 「あ、もしもし、シモダさんですか? 出るのが遅れてすみません、別件で立て込んでたものですから……」 「(し、『シモダさん』っ……?! ウエダさんの次はシモダさんの登場ってわけねっ! ふんっ、その次に出てくるのは『ナカダさん』だったりするのかしら?)」  綾乃が心の中で皮肉を炸裂させている裏で葵は、淡々とした口調でまるで別人のように振る舞い始めるのだ。 「ええ、ご依頼の件でしたら、納期よりも一週間ほど早く仕上がりそうです。……えっ? リピーター契約をしていただけるんですか?! ありがとうございます!!」  なんだか、仕事という面ではすごくいい話のようだ。 「……はい、ぜひじっくりお話を進めさせて下さい! ……えっ、シモダさんの行きつけのラウンジで、ですか?」  その会話から察するに、クライアントのシモダさんはまたまた女性のようだ。  ……そしてどうやらまたデートに誘われているらしい。  綾乃からの冷ややかな視線を背中に浴びながらも葵は、「ふぅ」と小さくため息混じりに電話の向こうへと囁きかけた。 「ダメですよ、ラウンジなんて……。貴女(あなた)とお酒なんてご一緒してしまったら、真面目に仕事の話だけで終われるような自信なんて……僕にはありませんから。……ええ、お仕事で大いに貢献できるようになってから改めて……ぜひ、お願いします」  その雄弁な口ぶりといったらもう、二重人格さながらだ。 「(まさか、ほんとに行く気じゃないでしょうねぇ?)」  面と向かって問い質したいことを、心の中でつぶやく。  そうこうしているうちに通話を終えた彼が、クルリと振り返っては青ざめた。  ……そう、綾乃のジトーッとした怖い顔が待ち構えていたからだ。 「……あんた、今のが『経営学を勉強した結果』なわけっ……?!」 「け、経営学の一環……ってとこかなっ? 俺流のっ……!」  しどろもどろになる葵をさらに問い詰める綾乃。 「あんたねぇ、それってホストでいう色営業ってヤツなんだからねっ?! わかってるの?!」 「枕営業じゃないだけマシだろー?! 誘われても結局は回避しながらうまくやってるんだしっ……」 「そういう問題じゃないのっ!」
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