才能泥棒

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そよかぜ高校1年B組の教室は、まるでお葬式みたいに静かだった。入学式を終えたクラスメイトの表情は、緊張と不安で、みんなかたい。 教壇に立つ担任が「それじゃ自己紹介するぞー」と俺たちに声をかけた。 先生の指示に従って、クラスメイトが一人ずつ自己紹介を始めた。しかしどいつもこいつも恥ずかしそうにぶつぶつ話すばかりで、まったく面白みがない。俺は早々にクラスメイトへの興味を失い、椅子にもたれかかって大きなあくびをした。 中学までは、帰宅部だった。なにかに打ち込みたいと思いながら、それが見つけられないことにイライラしていた。だから高校に入ったら、すげーやつと面白いことをしたいって思ってたんだけどな。 「はい、次の人」 担任の声に俺はのろのろと立ち上がると、乾いた声で言った。 「出席番号10番。太田(おおた)みつる。よろしく」 そんな簡単に見つかるわけ、ないよな。 俺は無気力な自己紹介を終えて、椅子に座り直した。そして机に肘をつくと、自虐めいた笑みを浮かべた。 次の瞬間、教室中に何十枚もの白い紙が舞い踊った。驚いた俺が振り向くと、後ろの席の男子生徒がゆっくりと立ち上がった。 赤色の長い前髪から、切れ長の目がギラギラと光っている。その瞳は自信に満ち溢れているように、俺には見えた。そいつが右手に握ったペンが、陽の光を浴びて金色に輝いている。 そいつは大胆不敵に笑うと、大きな声で言った。 「僕は出席番号11番の河井(かわい)タクマ。入部希望は文芸部。将来の夢は直木賞作家になることだ! 僕が書いた小説をプレゼントするから、みんな読んで感想くれよな!」 俺は自分の机に落ちた原稿用紙を手に取ると、すぐに目を通した。そこに書かれていたお話に、俺はたちまち魅了された。小説って、面白い!  その瞬間、ずっとくすぶっていた俺の心が、勢いよく燃え上がった。 面白そうなもの、見つけたかも! 俺はホームルームが終わるとすぐに図書室に駆け込み、そよかぜ高校文芸部に入部した。
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