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「みつる、君にも謝らなきゃいけない。僕は君を散々馬鹿にして、挙句の果てに才能まで奪ってしまった。本当にすまなかった」
深々と頭を下げるタクマを、俺はじっと見つめる。先ほどタクマがペンを折った瞬間に、森先輩と同じく、俺にも以前の感覚が蘇っていた。きっと松本先生の文才も元に戻ったのだろうと、俺は思った。タクマに向かって、俺は言った。
「さっきあのペンを使えと命令したのは俺なんだから、そこは謝らなくてもいいさ。なあ、タクマ。春に教室で初めて会った時、お前が堂々と夢を語る姿に、俺は憧れたんだぜ」
タクマはゆっくり顔をあげると、不安そうな表情で俺を見つめた。俺はそんなタクマを見つめながら、言葉を続けた。
「4月の講評会でお前が書いた小説、覚えてるか? あれは正真正銘、お前が書いた作品だろう。俺が言っても説得力がないかもしれないけど、あれは本当に面白かった」
タクマの目には涙が滲んでいた。俺は前々から思っていた素直な気持ちを、タクマに伝えた。
「だからタクマ、自信を持てよ。お前には本物の文才がある。人の才能なんか盗まなくたって、これからも自分の才能を磨いていけば、きっとお前はプロになれる!」
タクマの目からこぼれた涙が、頬を伝った。タクマは涙を拭うことなく、俺を見て大きな声で言った。
「みつる、ありがとう。もうこんな卑怯なことはしないと約束する。君さえよければ、僕はこの文芸部で腕を磨き続けたい。今度は同じプロを目指す書き手として、君と対等に」
「へっ! そのくらい謙虚な方が、お前にはちょうどいいんだよ。さあ、仕切り直して、もう一回みんなで講評会しようぜ!」
俺はしゃがんでいたタクマの手を取って、力いっぱい引き寄せた。俺たちは顔を見合わせると、どちらからともなく笑い出した。窓から差し込む夏の太陽が、俺たちを照らす。俺は、タクマに言った。
「どっちが先に直木賞を獲るか、勝負だな」
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