才能泥棒

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そして、文芸部の本格的な活動が始まった。メンバーは俺・タクマ・森先輩の3人だ。 森先輩は、俺たちに文芸部のルールを教えてくれた。その中の一つが講評会だ。2カ月に一度、全員が自作の小説を提出し、互いに読み合って感想を言い合うというものだ。 俺たちはさっそく、第1回の講評会を行うことにした。本来は事前に原稿を準備しておくのだが、今回は初めてということで、みんなで図書室で書くことにした。テーマは「春」で、原稿用紙は3枚までと、森先輩から補足があった。 経験者の森先輩とタクマは、あっという間に原稿を仕上げてしまった。一方の俺は、はじめの一文すらなかなか書けず、苦戦した。頭に浮かんだ情景を言葉にするのは、想像以上に難しかった。それでもなんとか原稿を書き終えることができて、俺はほっと胸をなでおろした。 いよいよ講評会が始まった。俺は作品を読みながら、二人の様子をちらりと見た。森先輩は原稿を眼鏡に近づけて、なにやらぶつぶつと呟いている。タクマは胸ポケットから教室で見た金色のペンを取り出すと、先輩の原稿に大きく丸をつけた。 10分の制限時間が過ぎて、みんなで感想を言い合う時間になった。二人の作品はとてもレベルが高くて、俺はとにかくすごいと言うしかなかった。特にタクマの小説はずば抜けて面白く、さすが作家志望と名乗るだけあると俺は舌を巻いた。 「みつるは初心者だから、今回はうまく書けなくても大丈夫だからね。これからもっと練習したら、すぐ書けるようになるよ」 森先輩は俺の小説(ただの文章の羅列と言った方がいいかもしれない)を読んで、そうフォローしてくれた。 一方のタクマは「誤字脱字が多くて、内容以前の問題」と、俺の作品をこき下ろした。カチンときた俺は、思わずタクマに近寄った。 タクマも俺を睨んで、俺たちの間にバチバチと火花が散った。それを見た森先輩がたまらず間に入って、波乱の第1回講評会は幕を閉じた。
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