才能泥棒

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「二人とも本当に申し訳ない。私も自分の作品の出来の悪さに吐き気がするよ。前回の講評会が終わってから、まったく小説が書けなくなってしまってね。本当に立つ瀬がないよ」 その話を聞いて、俺は森先輩がスランプになったのではないかと考えた。でもこれは小説以前のクオリティーで、スランプというには無理がある。前回の講評会で何かおかしなことでもあっただろうかと俺は考えたが、何も思い浮かばなかった。 タクマは机の上の物を手で乱暴に払いのけると、自分の鞄から松田しのぶ先生の本を取り出した。俺が前に図書室で読んでいたのと同じタイトルだが、あれはタクマが自分で用意したものだろうと俺は思った。 「ああ、イライラする」 タクマはそう言って本を机の上に置くと、開いたページをペンで真っ黒に塗り潰してしまった。その後俺たちがタクマに声をかけても一切の反応はなく、第2回目の講評会は中止となった。
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