才能泥棒

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猛暑が続く8月の夏休み。前回の講評会から、さらに2カ月が過ぎていた。グランドからは野球部員の掛け声、屋上からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。そして俺たちはというと、三人で図書室の机に座っていた。 俺たちの間に流れる空気がひんやりしているのは、エアコンのせいだけではないと俺は感じていた。今日は第3回目の講評会の日だ。6月の講評会を仕切り直して、新しい会を開くことになったのだ。俺の隣に座った森先輩が、重たい沈黙を破った。 「みんな集まってくれてありがとう。確認だけど、今回のお題は『友達』で、枚数は自由だ。ただ講評会の前に、二人に伝えなきゃいけないことがある」 俺がなんだろうと思って森先輩の方を見つめると、森先輩は俺たちに向かってぐいと頭を下げだ。 「すまない。前回の講評会で散々迷惑をかけたから、今回こそはと思って頑張ったんだけど……。結局一文字も書けなくて、自分の分を用意できなかった。だから今日は、二人の作品を読ませてもらうだけにさせてもらえないか? 本当に申し訳ない」 俺は森先輩の原因不明の不調がまだ続いていることに驚いた。しかし先輩の目ににじむ涙を見て、一番苦しいのは森先輩なんだよなと俺は思った。俺は努めて明るい口調で言った。 「先輩、気にしないでください。全然大丈夫ですよ! 初心者の俺が偉そうに言える立場じゃないですけど、絶対また書けるようになる時が来ますって」 森先輩は目頭を押さえると、俺に「ありがとう」と呟いた。俺の向かいに座っているタクマはなにも言わず、じっと目を閉じていた。
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