才能泥棒

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そして3回目の講評会が始まった。 俺はタクマの書いた小説を読んで、全身に鳥肌が立った。前回の小説よりもはるかにパワーアップしていて、もうプロレベルの出来栄えだったからだ。しかもタクマの文章は、俺の敬愛する松田しのぶ先生の作品によく似ていた。タクマの才能は直木賞レベルなのかと、俺はひどく驚いた。 肝心のタクマは俺が書いた渾身の長編をぱらぱらと流し読みすると、勝手にスマホをいじり始めた。いつもの俺ならそんなタクマを注意するが、こんな作品を読まされたら、何も言えないではないか。 すると森先輩が「タクマ、君は天才だ!」と叫んで、タクマに勢いよく飛びついた。突然の出来事に驚いたタクマは、手からスマホを落としてしまった。タクマのスマホは、俺の目の前に転がった。 反射的にタクマのスマホを拾った俺は、光っている画面を思わず見てしまった。そこにはネットニュースが表示されていて、俺は思わず大声を上げた。 「直木賞作家の松田しのぶ先生が活動中止? 理由は原因不明のスランプだって……」 俺の声に森先輩も我に返り、俺とタクマを交互に見た。タクマは俯いていて、どんな表情をしているのか俺からは見えなかった。 その時だ。俺はなんとも言えない違和感を覚えて、あれと首を傾げた。頭の中で文芸部でこれまでに起きたこと、そして今日の出来事を振り返ってみる。なにかが、おかしくないか? 森先輩の原因不明の不調。タクマが持っていたペン。そして松田しのぶ先生の突然の活動休止。 俺は目を閉じて、頭の中で別々に見える情報の糸を丁寧に束ねていく。そして俺は、一つの答えにたどり着いた。興奮を抑えながら、俺はタクマに尋ねた。
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