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「なあ、タクマ。お前が前に図書室で使ってた金色のペン、今どこにある?」
俺の問いかけにタクマは一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの不遜な表情に戻った。タクマは筆箱から件のペンを取り出して机に置くと、俺を見た。
「で、このペンがどうしたんだ?」
俺はタクマが取り出したペンを、じっと見た。あの金色のペンで間違いない。俺はタクマに顔を向けると、声が裏返らないように言葉を発した。
「タクマ。前の講評会でお前がやってたように、そのペンで俺の原稿になにか書き込んでみてくれないか」
タクマは少し黙ってから「本当にいいのか?」と呟いた。俺が頷くと、タクマは唇を強く噛んでからペンを握り、俺の原稿に大きくバツ印を書いた。
次の瞬間、俺の頭はフリーズして、体が少しふらついた。森先輩が「大丈夫かい」と、俺の体を支えてくれた。俺は「はい」と小さく言ってから、鞄から予備の原稿用紙と鉛筆を取り出した。
俺は机に置いた原稿用紙に、鉛筆を近づける。しかし俺は、一文字も文章を書くことができなかった。俺の頭の中にあった色んなアイデアが、全部なくなっていたからだ。そして俺は確信した。
俺の小説を書く才能が盗まれた、と。
小さく頷いて、俺は、俯くタクマに話しかけた。
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