才能泥棒

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「これで分かったぞ。このペンで紙や本に書き込みをすると、それを書いた人の文才を盗めるんだ。つまりお前はみんなから書く才能を奪って、自分のものにしたんだ!」 俺が最後まで話し終えると、タクマは膝から崩れ落ちた。しばらく床を見つめていたタクマだったが、俺を見上げると震える声で白状した。 「そうだ、僕がやったんだ」 その表情はいつもの自信家で憎たらしいタクマとは、まるで違っていた。タクマは観念したように話し始めた。 「中学生3年生の時。家の前に落ちていたこのペンを拾って、学校のプリントに自分の名前を書いたんだ。そしたら脳内に誰かのイメージが入り込んできて……。それが担任の文才だと知った時に、僕はこのペンの力を理解した」 タクマの告白に、俺と森先輩は耳を傾ける。タクマは苦しそうに目を細めながら、言葉を続けた。   「僕はみんなに小説家になると、自信満々に言っていた。でも本当は、自分に才能がないことに悩んでいたんだ。だから他人の文才をこのペンで盗んで、自分のものにした」 俺は2回目の講評会の時のタクマの行動を思い出した。タクマが松田先生の本を自分で用意したのは、図書室の本に書き込みをすることに抵抗があったからだろう。 「このペンがあれば、こんな僕でもプロになれると思ったんだ。でもそれは間違っていたと、ようやく気づいたよ」 タクマはそう言うと、ペンを両手で力強く握ってばきっと折った。その直後に森先輩は「あれ?」と呟いて、頭に手をやった。タクマは涙を流しながら、森先輩に頭を下げた。 「先輩の文才を勝手に盗んだあげく、前の講評会であんなひどいことをしてしまって、本当にごめんなさい」 タクマの突然の謝罪に、森先輩は目を丸くした。すると森先輩はタクマの肩に手を置いて、タクマを見つめた。 「事情は分かった。私はもう、気にしてないよ。それにさっき君がペンが折った時に、私の頭の中に昔の感覚が戻ってきたんだ。これでまた、小説が書けそうだ!」 森先輩の言葉に、タクマはもう一度深く頭を下げた。そしてタクマは、俺の方を向いた。
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