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あたしはなかなか人の名前を呼べない。 “なかなか”どころではなくて、名前を呼べる人は本当に限られていて・・・。 「気付かれてたんだ・・・。 みんな・・・気付いてるのかな?」 「他の奴らは大丈夫だろ! 俺も空気読めるからな、明の空気も読める。 誰も“友達”じゃないんだろ? 人事部の“幼馴染み”の天野以外は!!」 「剛士の“友達”とか奥さんなら大丈夫なんだけど・・・。 “かぞく”が認めた人なら、あたしも大丈夫なんだけど・・・。」 あたしが泣きながらそう言うと、男の人は少し怒った顔でオーシャンのことを見た。 「俺にとっては明は“友達”だから。 明は“友達”だとは思ってくれてなくても、明は“友達”なんだよ。 世継蘭丸なんて忍者みたいな名前を、本気で羨ましがってくれた“友達”なんだよ。」 「世継蘭丸も凄い名前だね。」 「なにが“ゲイ”だよ。 真坂部長の空気は普段は変わらないけど、あの日は酔っ払ってたみたいだから分かった。 全員潰す気で飲んでただろ、明と2人きりになるために。」 そんな驚く話をしてきて・・・。 オーシャンが言っていた通りの、驚く話をしてきて・・・。 「明もどうしたんだよ? 普段はどんな空気も読めるのに、真坂部長の時だけ何でそんなに鈍くなってるんだよ? どう見てもあの日の夜、真坂部長は・・・あの人は明のことが大好きだっただろ。」 「そう・・・だったよね!!」 あたしは泣きながら笑う。 瞳ちゃんのコーヒー牛乳を飲んでから涙腺も弱くなった。 「どんな事情でも俺は許せねーよ。 明のことを“女友達”とか言わないでやってくださいよ!!」 そう言ってくれた男の人に、オーシャンは少しだけ困った顔で笑っている。 “真坂部長”でもこの本気の空気をかき混ぜることは出来ないらしい。 出来ないし、しようともしていない。 どんなに取り繕っても、ここまで本気の空気には入り込めないから。 ここに入り込める空気は本気の空気だけだから。 「ありがとう、蘭丸。」 あたしのことを“友達”と言って、空気を読まずに動かしてくれたこの人の名前を呼んだ。 初めて、呼んだ・・・。 “かぞく”が認めた人以外で、初めて・・・。 「明、真坂部長が初めて参加した飲み会ですぐに“真坂部長”って言ってたからな。 仕事で接点もないはずなのに、“真坂部長”って。 だから空気を作った、明が真坂部長のことが好きなのは分かったから。 “まさか”、真坂部長があんなに早く“俺も海に行きたい”とか言い出すとは思わなかったけどな!!」 そう言って笑っている蘭丸にあたしも笑い返す。 そして、言った。 空気を動かす感じじゃなくて、軽い感じで。 「彼女、そろそろ結婚したい空気出てるよ?」 「・・・マジで!?」 「好きな相手の空気読むのって難しいよね~!?」 .
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